就業規則の見直し|手続きや注意点、見直しのメリットを解説

2023年06月19日
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就業規則の見直し|手続きや注意点、見直しのメリットを解説

2021年に埼玉県内の労働基準監督署が定期監督等を行った事業場は2023事業場で、そのうち約7割にあたる1381事業場において、何らかの法令違反が認められました。

職場における労働条件を法令の規定に適合させて、従業員との労使トラブルを防ぐためには、定期的に就業規則を見直すことが効果的です。就業規則の見直しを行う際には、法律の専門家である弁護士に相談したうえで行いましょう。

本コラムでは、就業規則の見直しについて、メリットやチェックすべきポイント、手続きや注意点などをベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が解説します。

1、就業規則を見直すメリット

就業規則を作成している会社は、その内容を定期的に見直すことをおすすめします。
就業規則を見直すことの主なメリットは、以下の二つです。



  1. (1)法令・契約との関係を整理できる

    職場で働く従業員の労働条件には、会社と従業員が締結している労働契約のほか、労働基準法などの法令や就業規則が複雑に絡み合って決まります。

    労働基準法などの法令は、何度も改正されています。そのため、新入社員が毎年入社するような会社では、これまでの法律の規定には適合していた就業規則の内容が、新しい法律の規定との関係では適合しなくなり、その結果、気が付かないうちに新しい法律の規定に違反している状況が生じてしまう可能性があります。
    就業規則を定期的に見直すことにより、このような状況を回避することができるのです。

  2. (2)労使トラブルの予防につながる

    就業規則の内容を見直して法律の規定に適合させ、各労働契約との関係性を整理することは、従業員との労使トラブルの予防にも役立ちます。
    各従業員に適用される労働条件や、トラブル発生時の処理基準などが明確になるためです。

    深刻な労使トラブルが発生すると、会社にとって大きな損失が発生するおそれがあります。就業規則の見直しを定期的に行うことは、労使トラブルによる会社の損失を防ぎ、安定的に成長を続けるために不可欠なプロセスといえるのです。

2、就業規則を見直す際のポイント

就業規則を見直す際には、労働基準法その他の法令への適合性や、個々の従業員に適用される労働条件などに注目する必要があります。

特に、以下の4点については、適切な内容になっているかどうか、就業規則を見直す際に必ずチェックしてください。



  1. (1)労働時間に関する規定

    労働基準法では、以下のような、さまざまな労働時間に関する制度が認められています。

    • 1か月単位の変形労働時間制(同法第32条の2)
    • フレックスタイム制(同法第32条の3)
    • 1年単位の変形労働時間制(第32条の4)
    • 専門業務型裁量労働制(同法第38条の3)
    • 企画業務型裁量労働制(同法第38条の4)
    • 高度プロフェッショナル制度(同法第41条の2)
    など


    これらの制度のなかで、自社の実態にフィットしそうなものがあれば、就業規則を変更して導入することを検討しましょう。

    なお、新しい労働時間制度を導入する際には、就業規則の変更だけでなく、労使協定の締結または労使委員会決議も必要になります
    手続きの詳細に不安があれば、弁護士にご相談ください。

  2. (2)残業代に関する規定

    労働基準法は、会社が労働時間を延長したり、休日に労働させたりした場合、その時間又はその日の労働について、従業員に対し、所定の水準以上の割増賃金を支給しなければならないと定めています(労働基準法第37条第1項)。

    <労働基準法に基づく割増賃金の最低ライン>

    法定内残業:所定労働時間を超え、法定労働時間以内の残業 割増なし
    時間外労働:法定労働時間を超える残業
    • (a)月60時間以内の部分:25%以上
    • (b)月60時間を超える部分:50%以上
    ※中小企業の場合、2023年3月までは25%以上
    休日労働:法定休日に行われる労働 35%以上
    深夜労働:午後10時から午前5時までに行われる労働 25%以上
    時間外労働かつ深夜労働
    • (a)月60時間以内の部分(時間外労働について計算):50%以上
    • (b)月60時間を超える部分(時間外労働について計算):75%以上
    ※中小企業の場合、2023年3月までは50%以上
    休日労働かつ深夜労働 60%以上

    就業規則を見直すにあたっては、従業員に対して支給する割増賃金の水準が、上記の最低ライン以上となっていることを確認する必要があります

    特に、2023年4月以降は、月60時間を超える部分の時間外労働につき、中小企業における割増賃金率の最低ラインが25%以上から50%以上に引き上げられます。
    まだ割増賃金率の引き上げに対応していない中小企業は、速やかに就業規則の見直しを行いましょう。

  3. (3)育児休業・介護休業等に関する規定

    「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下「育児・介護休業法」といいます。)では、従業員が取得できる育児休業・介護休業等に関するルールが定められています。
    例えば、事業主は、3歳に満たない子を養育する労働者が請求した場合においては、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、所定労働時間を超えて労働させてはいけない(育児・介護休業法第16条の8第1項)というルールがあります。

    そして、厚労省の指針では、所定外労働の制限は、あらかじめ制度として導入され、就業規則などに記載されるべきものとされています。
    そのため、会社としても、就業規則で定められている制度の内容が、育児・介護休業法の水準を下回らないようにすることが求められているのです

    特に、育児休業については、2022年4月以降、段階的に新制度が施行されています。
    改正後の育児・介護休業法に基づく育児休業制度に対応していない企業は、就業規則における育児休業関連規定の見直しを検討してください。

  4. (4)賞与・退職金に関する規定

    賞与・退職金は、労働基準法によって会社に支給が義務付けられているものではありません。
    しかし、就業規則その他の社内規定において定めがある場合には、会社はその定めに従って賞与・退職金を支払う必要があります

    また、賞与・退職金の条件は、既存従業員だけでなく、新卒採用や中途採用の候補者に対するアピールポイントにもなり得ます。
    同業他社における標準的な水準を踏まえながら、適切な賞与・退職金の条件を設定することが重要です。
    したがって、就業規則の定期的な見直しを行うにあたっては、賞与・退職金の条件についても都度の検討を行うべきでしょう。

3、就業規則変更の手続き・注意点

就業規則を変更する際には、労働基準法に定められた手続きに沿って変更する必要があります。具体的には、以下の3点に注意しながら、変更の手続きを進めてください。



  1. (1)労働組合等の意見を聴取する必要がある

    就業規則を変更する場合、使用者は以下の要領に従い、労働組合または労働者代表の意見を聴取する必要があります。(労働基準法第90条第1項)。

    • ① 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合:その労働組合の意見を聴取する
    • ② ①以外の場合:労働者の過半数を代表する者の意見を聴取する
  2. (2)一定の事項の変更については、労働基準監督署への届け出が必要

    以下の事項を変更する場合には、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に届け出る必要があります(労働基準法第89条)。

    • ① 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交代制勤務(就業時転換)に関する事項
    • ② 賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算、支払いの方法、締め切り、支払いの時期、昇給に関する事項
    • ③ 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
    • ③ の2:退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算、支払の方法、退職手当の支払の時期に関する事項
    • ④ 臨時の賃金等(退職手当を除く)および最低賃金額に関する事項
    • ⑤ 労働者の食費・作業用品その他の負担に関する事項
    • ⑥ 安全・衛生に関する事項
    • ⑦ 職業訓練に関する事項
    • ⑧ 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
    • ⑨ 表彰・制裁の種類・程度に関する事項
    • ⑩ その他、事業場の全労働者に適用される事項


    就業規則の変更について労働基準監督署への届け出を行う際には、労働組合または労働者の過半数代表者の意見を記した書面を添付することが必要になります(同法第90条第2項)。

  3. (3)変更後の就業規則は、労働者に周知する必要がある

    就業規則を変更した場合、使用者は労働者に対して、変更後の就業規則を以下のいずれかの方法により周知する必要があります(労働基準法第106条第1項、同法施行規則第52条の2)。

    • ① 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付ける
    • ② 書面を労働者に交付する
    • ③ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずるものに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する

4、就業規則の見直しを行う場合は弁護士にご相談を

就業規則を見直す際には、弁護士に相談することをおすすめします

弁護士は、労働基準法その他の法令を踏まえた上で、クライアント企業の実態に合った就業規則のルールを提案することができます。
法改正対応が必要となる場合には、改正内容を漏れなく反映させることも可能です。

弁護士のアドバイスを受けながら就業規則を見直すことは、労使トラブルを予防して、会社の安定的な成長にも寄与します。
就業規則の見直しを検討されている経営者や担当者の方は、ぜひ弁護士にご相談ください。

5、まとめ

就業規則を定期的に見直すことにより、法改正や時代の流れに合わせて労働条件を調整でき、労使トラブルの予防や効果的な人材確保にもつながります。
また、弁護士のサポートを受けることで、就業規則を労働基準法その他の法令に適合させるための、適切な変更手続きを進めることができます。

ベリーベスト法律事務所は、人事・労務管理に関するご相談を随時受け付けております。就業規則の見直しをご検討中の経営者や担当者の方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています