子どものワクチン接種を拒否する妻と離婚する方法
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子どもは病気や感染症にかかるリスクが高いことから、年齢に応じてさまざまなワクチン接種が推奨されています。
多くの家庭ではワクチンの予防接種スケジュールに沿って子どもにワクチン接種を行われている一方で、さまざまな事情から子どもへのワクチン接種を拒否する親もいます。そして、夫としては、妻が子どもへのワクチン接種を拒否している場合、子どもの健康や将来が不安になるでしょう。場合によっては、子どもを守るために妻と離婚をすることまで検討する方もおられるかもしれません。
本コラムでは、子どものワクチン接種を拒否する妻と離婚する方法について、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が解説します。
1、子どものワクチン(予防接種)をめぐって夫婦仲が悪化する場合
以下では、子どもワクチンをめぐって夫婦仲が悪化するケースを紹介します。
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(1)夫婦のどちらかが、反医療・反ワクチン系の情報に影響されたケース
インターネット上では、「反医療」や「反ワクチン」の情報が多々あります。
もし夫婦のどちらか一方が反医療や反ワクチンの情報に感化されてしまうと、子どもに対するワクチン接種を拒否する行動に出てしまう可能性があるでしょう。
夫婦がお互いに反医療や反ワクチンの考え方をしているならともかく、片方だけがそのような考え方をしているのなら、意見が対立して夫婦仲が悪化する原因となります。 -
(2)宗教的な背景から子どもの予防接種に反対するケース
宗教によっては、身体に異物を混入させる行為である予防接種を禁止しているところもあります。
配偶者がそのような宗教に入信している場合には、宗教的な背景から子どもへのワクチン接種を拒否することがあるでしょう。
配偶者自身が拒否するのは宗教的な理由から仕方ないと認められても、「子どもにもそれを強制するのは間違っている」と考えるなら、夫婦仲が悪化する原因になるでしょう。
2、子どもの予防接種は「義務」ではない
「ワクチンなどの予防接種は、法律上の義務である」と考えている方もおられるかもしれません。
しかし、ワクチンなどの予防接種に関することを定めた予防接種法では、予防接種を受けることを「推奨」または「努力義務」として規定しているだけで、法的義務として定められてはいません。
そのため、子どもへのワクチン接種も義務ではなく、子どもに医療機関で予防接種を受けさせなかったとしても、それ自体は違法ではありません。
ただし、予防接種は、病気や感染症を防ぐために推奨されているものですので、免疫力が弱い子どもが病気などにかからないようにするためにも、一般論としては、できる限り予防接種を受けさせるべきといえます。
3、「子どもにワクチン接種させない」ことを理由に離婚することはできる?
以下では、「妻が子どもにワクチン接種させない」ことを理由に離婚することができるかどうかについて解説します。
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(1)三つの離婚方法
夫婦が離婚する方法は、主に以下の三種類となります。
① 協議離婚
協議離婚とは、夫婦の話し合いで離婚の合意をして、離婚する方法です。
協議離婚の場合には、お互いが合意していればどんな理由であっても離婚できるため、「子どもにワクチン接種させない」という理由であっても、相手が離婚に応じてくれるなら離婚することが可能です。
協議離婚を成立させるためには、ワクチン未接種により子どもの将来や健康に不安が生じることを説明したうえで、「子どもを守るために離婚をしたい」という希望を理解してもらうことが大切です。
相手が納得してくれれば、離婚届に記入して、市区町村役場の窓口に提出すれば離婚は成立となります。
② 調停離婚
調停離婚とは、家庭裁判所において離婚に向けての話し合いを行う手続きです。
離婚調停では、調停委員という第三者が関与して離婚に向けた話し合いが行われるため、お互い冷静になって話し合いを進められるというメリットがあります。
協議離婚と同じく、離婚調停もお互いが離婚に合意した時点で成立となり、離婚に至る理由は問われないため、どのような理由であっても離婚が可能です。
③ 裁判離婚
裁判離婚とは、家庭裁判所に離婚訴訟を提起して、裁判官に離婚の可否を判断してもらう手続きです。
夫婦間の合意に基づく協議離婚や調停離婚とは異なり、裁判離婚では、以下のような法定離婚事由がなければ離婚ができません。- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 回復見込みのない強度の精神病
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
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(2)「子どもにワクチン接種させない」ことは法定離婚事由にはあたらない
配偶者がどうしても離婚に応じてくれない場合には、最終的には、離婚裁判によって決着を付ける必要があります。
その際には、法定離婚事由に該当する事情があるかどうかが需要になります。
「子どもにワクチン接種させない」という理由は、上記の法定離婚事由のいずれにも該当しませんので、それだけでは離婚を認めてもらうことは難しいといえます。
しかし、予防接種を受けなかったことが原因で子どもが重篤な病気にかかってしまった場合や、宗教への妄信により夫婦生活に支障が生じているような場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたり、離婚が認められる可能性があります。
4、親権を獲得するための注意点
父親が子どもの親権を獲得しようとする場合には、以下の点に注意が必要です。
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(1)親権者を指定する際の判断基準
一般的に子どもの親権を判断する際には、父親よりも母親の方が有利だといわれています。そのため、離婚をすると、男性側は子どもの親権権を失う可能性が高いのです。
しかし、「父親だから絶対に親権者になることができない」というわけではありません。
親権者を指定する際の判断基準をふまえて、適切な主張を行えれば、親権を獲得できる可能性があります。① 監護の継続性
監護親と子どもとの心理的な結びつきを重視して、特別な事情のない限りは、現に子どもを監護している親が優先されます。
② 母性優先の原則
子どもが乳幼児であるときは、母親の愛情が不可欠であるため、特別な事情のない限りは、母親が優先されます。
③ 兄弟不分離の原則
兄弟姉妹は心理的・情緒的なつながりが強いため、特別な事情のない限りは、親権者の指定にあたって兄弟を別々にすることのないよう配慮が求められます。
④ 子の意思の尊重
親権者が誰になるのかは、子どもにとって重要な関心事であるため、子どもの意思を尊重して親権者が判断されます。
法律上は15歳以上の子どもについては意見を聞かなければならないとされていますが、15歳未満の子どもであっても自分の考えを述べることができる年齢であれば、実務上は意思確認が行われています。 -
(2)親権者を決める方法
親権者を決める場合には、以下のような方法で行います。
① 夫婦の話し合い
夫婦に子どもがいるときは、どちらか一方を親権者に指定する必要があります。
そのため、協議離婚を行う際には、離婚条件のひとつとして「どちらが親権者になるのか」を話し合う必要があります。
② 離婚調停
夫婦の話し合いでは親権者が決まらないときは、家庭裁判所に離婚調停の申立てを行います。
親権が争点となる事案では、家庭裁判所の調査官による調査が行われることが一般的です。
調査官による調査報告書は、その後の離婚裁判においても重要な証拠として考慮されるため、しっかりと対応することが大切です。
③ 離婚裁判
離婚調停でも親権者が決まらないときは、最終的に離婚訴訟を提起して、裁判所に判断してもらうことになります。
裁判所では、上記の親権者指定の判断基準に基づき、父親または母親のどちらか一方を子どもの親権者に指定されます。 -
(3)親権の獲得が難しいときは面会交流の実現を目指す
子どもの親権の獲得が難しい状況になったとしても、すぐに諦めてはいけません。
親権者になれなかったとしても、面会交流を求めることで子どもと会う機会を確保することができます。
面会交流によって子どもと定期的に交流すれば、子どもの成長を見守ることができます。
また、子どもにとっても、親との交流が続くことは健全な成長にとって重要です。
どのような方法で面会交流を行うのかは監護親と協議して決めることになりますが、監護親が面会交流に消極的な場合には、面会交流の内容や条件を明確に定めておくことが大切です。
5、離婚や子どもの問題は弁護士に相談
離婚や子どもの問題でお困りの方は、弁護士に相談することをおすすめします。
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(1)最適な離婚方法をアドバイスしてもらえる
離婚する方法は、協議離婚・調停離婚・裁判離婚の三種類が主となりますが、どの方法を選択すべきかは、夫婦の状況や離婚に至る経緯や原因などによって異なります。
法定離婚事由に該当する事情がある場合には、裁判離婚を視野に入れて手続きを進めていくことができますが、そうでない場合には協議離婚や調停離婚によって離婚を成立させる必要があります。
このように、法定離婚事由の有無によってその後の方針は大きく変わるため、まずは法定離婚事由の有無を見極めることが重要です。
弁護士であれば、夫婦の状況や離婚に至る経緯や原因などの具体的な事情を考慮しながら、法定離婚事由の有無を正確に判断して、最適な離婚方法を提案することができます。 -
(2)有利な条件で離婚できる可能性が高くなる
父親が子どもの親権を獲得しようとする場合には、母親に比べてかなりハードルが高くなります。
少しでも親権獲得の可能性を高めるには、専門家である弁護士のサポートを受けることが大切です。
弁護士であれば、親権者を指定する際の判断基準を熟知しているため父親にとって有利な事情を説得的に裁判所に伝えて、「父親が親権者としてふさわしい」ということを理解してもらいやすくなります。
また、親権獲得が難しい事案についても、面会交流の内容を充実させることにより、父親と子どもとの継続的な交流を確保することが可能です。
6、まとめ
妻が子どもへのワクチン接種を拒否していると、夫としては子どもの将来や健康が不安になってしまうでしょう。
ワクチン接種を拒否するという理由だけでは裁判所に離婚を認めてもらうことは難しいですが、その他の事情もふまえて「その他婚姻を継続し難い重大な事由」があることを立証できれば、裁判離婚も可能です。
離婚に関するお悩みや困りごとは、まずはベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています