「認諾離婚」や「和解離婚」はどんな方法? それぞれの違い
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政府の統計によると、令和2年の全国の離婚総数は19万3253件、認諾離婚の件数は2件、和解離婚の件数は2545件でした。そのうち、埼玉県では、離婚総数が1万659件、認諾離婚が0件、和解離婚は137件です。
上記の統計からもわかるように、「認諾離婚」や「和解離婚」は、離婚総数に占める割合が小さく、非常に珍しい離婚の形式といえます。そのため、認諾離婚や和解離婚と聞いても、どのような方法なのか想像できない方がほとんどでしょう。
本コラムでは、認諾離婚と和解離婚の概要とそれぞれの違いなどについて、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が解説します。
1、認諾離婚とは? 和解離婚との違い
まず、認諾離婚の概要や、認諾離婚と和解離婚の違いについて説明します。
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(1)認諾離婚とは
認諾離婚とは、離婚を求める裁判を起こした場合において、被告(訴えられた側)が原告(訴えた側)の言い分を全面的に認めて離婚をする方法です。
認諾離婚が成立した場合、その内容が「認諾調書」という書面にまとめられて、裁判所から交付されます。
「認諾調書」という書面は、判決と同一の効力を有する(民事訴訟法第267条)ので、この書面がまとめられたときに、離婚は成立します。
そして、当事者の一方が、離婚届と一緒に、この書面を10日以内に市区町村役場に提出することで、離婚したことが戸籍上にも反映されます。 -
(2)認諾離婚と和解離婚との違い
和解離婚とは、離婚を求める裁判を起こした場合において、原告と被告が歩み寄り、お互いに譲歩し合意(これを「和解」といいます。)をすることによって離婚をする方法です。
和解離婚が成立した場合、その内容が「和解調書」という書面にまとめられて、裁判所から交付されます。
その後の流れは認諾離婚の場合と同じです。
このように、認諾離婚と和解離婚のどちらも、離婚の裁判を終了させて離婚を成立させる手段という点では同じです。
しかし、認諾離婚と和解離婚の間には、以下のような違いが存在します。① 認諾離婚は離婚以外が含まれている場合にはできない
認諾請求ができるのは、原告が被告に対して離婚のみを求めている場合です。
離婚以外にも親権、養育費、財産分与、年金分割など離婚に付随する問題を訴えに含めている場合には、たとえ相手が請求を認めていたとしても、認諾離婚はできません(人事訴訟法第37条第1項ただし書)。
これに対して、和解離婚には、認諾離婚のような制限はありません。
したがって、原告と被告の合意があれば、離婚以外の離婚条件も和解内容に含めることができます。
② 和解離婚では強制執行が可能
認諾調書および和解調書には、いずれも判決と同様の効力があります。
つまり、相手に金銭、物などの給付を求める訴えを起こし、判決において、被告がその給付を命じられたにもかかわらず、その義務を果たさないときは、その内容を強制的に実現する効力があります。これを「執行力」といいます。
例えば、離婚に加えて、養育費の支払いを求め、養育費の支払いについても和解が成立すると、その後に被告が養育費を支払わなかった場合は、裁判所を介して、養育費の支払いを強制的に実現することができます。
しかし、認諾調書では、そもそも訴えの内容が異なります。すなわち、当事者が離婚すること求める訴え(これを「形成の訴え」といいます。)のみが起こされています。そして、「離婚する」という判決によって離婚は成立するので、金銭に関する強制執行の必要性はありません。
2、離婚の基本的な流れ
離婚をする場合には、以下のような流れで手続きが進んでいきます。
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(1)協議離婚
夫婦が離婚をする場合には、まずはお互いに話し合いをして、離婚の可否および離婚条件の取り決めを行うことになります。
離婚を選択する夫婦のほとんどは、この協議離婚によって離婚をしているため、一般的な離婚方法といえるでしょう。
夫婦間で離婚の合意が成立した場合には、離婚届に必要事項を記入して、市区町村役場に提出することで離婚することができます。
なお、離婚条件を定めたら、口頭での合意で終わらせるのではなく、必ず離婚協議書などの書面に残すようにしましょう。
特に、金銭の支払いが発生する場合には、離婚協議書を公正証書の形式にしておくことで、後々のトラブルを予防することができます。 -
(2)調停離婚
夫婦の話し合いでは離婚の合意に至らなかった場合には、家庭裁判所に離婚調停の申し立てを行います。
調停も協議離婚と同様に基本的には話し合いの手続きになりますが、裁判所の調停委員が夫婦の間に入り、調整をしてくれることで、当事者のみで行うよりもスムーズに話し合いを進めることができます。
調停で離婚の合意が成立した場合には、その内容が「調停調書」という書面にまとめられて、裁判所から交付されます。
「調停調書」という書面は、判決と同一の効力を有する(家事事件手続法第268条第1項)ので、この書面がまとめられたときに、離婚は成立します。
そして、当事者の一方が、離婚届と一緒に、この書面を10日以内に市区町村役場に提出することで、離婚したことが戸籍上にも反映されます。 -
(3)審判離婚
調停が不成立になったとしても、例えば、以下のような理由がある場合には、調停に代わる審判によって離婚が認められることもあります。
- 離婚や離婚条件に争いはないが、ささいな意見の食い違いによって調停が不成立になった場合
- 病気などが原因で調停成立時の期日に出席できない場合
ただし、審判の効力は当事者から異議申立てがあれば失われてしまいます(家事事件手続法第286条第5項)ので、実際には審判離婚はほとんど利用されていません。
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(4)裁判離婚
調停が不成立になった場合、最終的には、離婚裁判による離婚を目指すことになります。
協議離婚や調停離婚は、基本的には話し合いの手続きであるため、お互いが離婚に合意すれば、離婚の理由がどのようなものであっても離婚をすること自体はできます。
しかし、裁判の場合には、以下のような法定の離婚事由が存在していなければ、裁判所に離婚を認めてもらうことができないのです。- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 配偶者の生死が3年以上明らかでない
- 強度の精神病にかかり回復の見込みがない
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
裁判所の判決によって離婚をするには、裁判所に対して、上記の法定離婚事由があることを主張していかなければなりません。
ただし、離婚訴訟の終結の仕方としては、判決による離婚以外にも、すでに説明した認諾離婚や和解離婚が存在します。
したがって、裁判手続き中に原告・被告で合意が成立した場合には、法定離婚事由の有無にかかわらず、認諾離婚や和解離婚をすることができるのです。
3、離婚にあたって、決めるべきこと
離婚をすることになった場合には、離婚そのもの以外にも、以下のような条件について取り決めを行う必要があります。
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(1)親権
夫婦に子どもがいる場合には、離婚時にどちらか一方を子どもの親権者に指定しなければなりません(民法第819条第1項)。
そのため、子どもが複数いる場合には、それぞれの子どもについて親権者を指定しなければなりません。
また、親権者を一度決めてしまうと、後から親権者の変更をすることは困難です。
したがって、親権者については安易に決めてしまわず、入念に検討や話し合いを行うようにしましょう。 -
(2)養育費
監護親は、非監護親に対して、子どもの養育費を請求することができます。
養育費の金額は、夫婦の話し合いで決めることができますが、裁判所が公表している養育費算定表を利用すれば、子どもの人数と年齢や夫婦の収入に応じた、養育費の金額の相場を簡単に知ることができます。
金額に争いがあるという場合には、養育費算定表を利用してみてください。 -
(3)財産分与
婚姻期間中に夫婦が協力して築いた共有財産については、離婚時の財産分与によって、2分の1ずつ分けることができます。
専業主婦であったとしても、2分の1という財産分与の割合は変わりません。
適切に財産分与を行うためには、お互いにすべての財産を開示しあう必要があります。
もし、相手が財産を隠しているという疑いがある場合には、弁護士に相談してください。
弁護士であれば、弁護士会照会や調査嘱託といった方法によって、相手の正確な財産を調査することができます。 -
(4)慰謝料
離婚にあたって、相手に有責性(不倫、DV、モラハラなど)がある場合には、相手に対して離婚慰謝料を請求することができます。
ただし、離婚慰謝料を請求する際には、相手の有責性を基礎づける事情について、証拠によって証明していかなければなりません。
十分な証拠がない状態で慰謝料請求をしても、相手に否定されたり証拠を隠滅されたりしてしまい、慰謝料を支払ってもらえなくなるおそれがあります。
したがって、慰謝料を請求する前に、まずはしっかりと証拠を収集しておきましょう。 -
(5)年金分割
年金分割とは、婚姻期間中の夫婦の保険料納付額に対応する厚生年金記録を分割して、将来の自分の年金とすることができる制度です。
専業主婦の方が離婚をすると、老後は、わずかな国民年金(老齢基礎年金)だけを頼りに生活することを強いられることになります。
老後の不安を解消するためにも、年金分割は必ず行っておきましょう。
4、離婚についての悩みは弁護士へ相談を
離婚についてお悩みの方は、弁護士にご相談ください。
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(1)適切な離婚方法を提案してもらえる
離婚をするための方法には、判決離婚、認諾離婚、和解離婚、協議離婚、調停離婚、審判離婚などさまざまなものがあります。
それぞれの方法にはメリットとデメリットがありますので、ご自身の状況に合った適切な離婚方法を選択することが大切です。
弁護士であれば、離婚の経緯や理由、相手の反応などを踏まえながら、最適な離婚方法を提案することができます。
自分の状況に合った離婚方法で離婚を進めていくことで、離婚が成立しやすくなるでしょう。 -
(2)相手との交渉を任せることができる
離婚をする際に避けて通ることができないのは、相手との話し合いです。
しかし、離婚に至る経緯や理由によっては、相手と顔を合わせて話し合いをすること自体が苦痛に感じられる場合もあるでしょう。
弁護士に依頼すれば、代理人として、相手との交渉の窓口にすることができます。
弁護士を代理人にすることで、離婚の話し合いに伴う精神的な負担やストレスは大幅に軽減されるでしょう。
また、専門知識をもつ弁護士が交渉を担当することで、より公平かつ有利な条件で離婚できる可能性も高くなります。
5、まとめ
認諾離婚という方法は、離婚全体でみても非常に珍しい離婚方法です。
また、認諾離婚には、離婚以外の条件を取り決めることができないなどのデメリットもあります。
離婚においては、専門家である弁護士に相談しながら、それぞれの方法のメリットとデメリットをしっかりと理解したうえで適切な方法を選択することが大切です。
離婚についてお悩みの方は、まずは、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています