未払い残業代の遅延損害金|請求できる金額の計算法と請求手順
- 残業代請求
- 残業代
- 遅延損害金

残業代が未払いの場合、未払い残業代の請求に加えて、支払いが遅れたペナルティとして、遅延日数に応じた“遅延損害金”も請求することができます。
長期間残業代が未払いになっている場合には、遅延損害金も高額になりますので、漏れなく計算し、しっかりと請求していくことが大切です。
今回は、未払い残業代の遅延損害金の計算方法や請求手順について、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が解説します。


1、残業代と遅延損害金の関係
残業代と遅延損害金はどのような関係があるのでしょうか。以下では、残業代と遅延損害金の関係、遅延損害金の利率などを説明します。
-
(1)残業代とは
残業代の定義は、以下の通りです。
- 会社によって定められた「所定労働時間」を超えて働いた分の賃金
- 労働基準法で定められた「法定労働時間※」を超えて働いた分の賃金
所定労働時間を超えて働いた場合を「法定内残業」、法定労働時間を超えて働いた場合を「法定外残業」といいます。
いずれも残業代を請求することができますが、法定外残業については、所定の割増率により増額された割増賃金を請求することができます。 -
(2)残業代が未払いだと遅延損害金が発生する
残業代が未払いになっている場合、未払い残業代の請求に加えて「遅延損害金」を請求することができます。
遅延損害金は、残業代が決められた日までに支払われなかったことに対するペナルティで、支払いが遅延した日数に応じて加算されます。
残業代の支払いが遅れれば遅れるほど遅延損害金が高額になりますので、未払い残業代に加えて遅延損害金を請求すれば、会社側に早期解決を促す効果が期待できます。 -
(3)遅延損害金の利率
遅延損害金は、未払い残業代に一定の利率を乗じて計算します。
遅延損害金の利率は、以下の通り、在職中か退職後であるかによって大きく異なります。
在職中の遅延損害金の利率 年3% 退職後の遅延損害金の利率 年14.6%
① 在職中の遅延損害金の利率
在職中の遅延損害金の利率は、民法404条の法定利率が適用されるため年3%です。ただし法定利率は3年ごとに見直されるため、令和8年4月1日以降の利率は変動する可能性もあります。
② 退職後の遅延損害金の利率
退職後の残業代請求は、民法の法定利率ではなく、「賃金の支払の確保等に関する法律」が適用され、遅延損害金の利率は、年14.6%になります。
退職後の遅延損害金の利率は、退職日の翌日から適用されますので、退職日までは年3%、退職日の翌日からは14.6%の利率で計算をします。
2、残業代における遅延損害金の計算方法
残業代における遅延損害金は、どのように計算すればよいのでしょうか。以下では、遅延損害金の計算式と具体的な計算例を説明します。
-
(1)残業代における遅延損害金の計算式
残業代における遅延損害金は、以下の計算式によって計算をします。
遅延損害金=未払い残業代×遅延損害金の利率÷365日×遅れた日数
「遅れた日数」については、残業代の支払期限の翌日から実際の支払日までの日数になります。残業代は、毎月の給料日に支払われるものになりますので、各給料日に支払われるはずだった残業代ごとに遅延損害金を計算する必要があります。
なお、うるう年の場合は、365日ではなく366日で計算するようにしてください。 -
(2)残業代における遅延損害金の計算例
【遅延損害金が在職中に支払われるケース】
- 令和7年1月25日に支払われるはずの残業代が2万円あったものの、給料日に支払われなかった
- 交渉の結果、令和7年7月25日に支払われることになった
【遅延損害金が退職後に支払われるケース】
- 令和7年1月25日に支払われるはずの残業代が2万円あったものの、給料日に支払われなかった
- 令和7年1月25日に退職した
- 交渉の結果、令和7年7月25日に支払われることになった
3、未払い残業代と遅延損害金請求の手順
遅延損害金は、単独で請求するのではなく未払い残業代とセットで請求をします。以下では、未払い残業代と遅延損害金の請求手順を説明します。
-
(1)未払い残業代に関する証拠収集
未払い残業代と遅延損害金を請求するには、まずは未払い残業代に関する証拠を集めます。
未払い残業代を請求する場合、労働者の側で残業代が未払いになっていることを立証しなければなりません。十分な証拠がない状態では、会社は残業代の支払いに応じてはくれず、裁判になったとしても未払い残業代の支払いを命じてもらうことはできません。
そのため、未払い残業代および遅延損害金を請求する前提として、証拠収集が重要になります。
未払い残業代に関する証拠にはさまざまなものがありますが、代表的な証拠としては以下のようなものがあります。
- タイムカード
- 勤怠管理システムのデータ
- 業務日報
- PCのログ履歴
- オフィスの入退室記録
- 交通系ICカードの利用履歴
- 残業時間を記録したメモ
-
(2)未払い残業代の計算
証拠を入手できたら、次は証拠に基づいて未払い残業代の金額を計算します。
未払い残業代の計算は、以下のような計算式に基づいて計算をします。
① 1時間あたりの基礎賃金 × ② 割増賃金率×残業時間
①の1時間あたりの基礎賃金は以下の式で求められます。
月給÷1か月の平均所定労働時間
1か月の平均所定労働時間は、以下の通りに求めます。
(365日-1年間の所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12か月
月給は、文字通り月に支払われる給与ですが、以下のような手当は含まれません。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住居手当
- 臨時に支払われた手当
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
②のは、時間外労働、深夜労働、休日労働によって、以下のように割増率が異なります。
時間外労働の種類 割増賃金率 時間外労働 25%以上 深夜労働(午後10時から翌午前5時まで) 25%以上 休日労働 35%以上 月60時間を超える時間外労働 50%以上
このように残業代計算は、非常に複雑な計算になります。正確に未払い残業代の金額を請求するためには、労働問題の実績が豊富な弁護士に相談するのが安心です。
-
(3)会社に対する未払い残業代の請求
未払い残業代の金額が明らかになったら、会社に対して未払い残業代および遅延損害金の請求を行います。その際は、配達証明付き内容証明郵便を利用するのが一般的です。
配達証明付き内容証明郵便を利用することで、いつ・誰が・誰に対して・どのような文書を送付したのかについて、客観的に証明することができますので、後日の証拠として残すことができます。
残業代請求には、3年という時効がありますので、催告により時効の完成が6か月間猶予されていることを証明するためにも、内容証明郵便での請求が有効です。
なお、会社との交渉段階では、未払い残業代に加えて遅延損害金を請求したとしても、和解で解決する場合には、遅延損害金を免除した金額で合意するケースが多いです。 -
(4)労働審判・訴訟
会社との話し合いで解決できないときは、裁判所に労働審判の申立てまたは訴訟の提起を行います。
労働審判では、裁判所から、当事者双方の主張及び証拠をもとに、調停という当事者同士の話し合いによる解決が行われるケースが多いです。
なお、訴訟における和解の場合も同様ですが、話し合いでの解決となった場合であっても、遅延損害金について考慮される可能性はあります。
4、労働基準監督署と弁護士に相談する場合の違い
未払い残業代や遅延損害金の問題を相談できるところとしては、労働基準監督署と弁護士があります。以下では、労働基準監督署と弁護士に相談する場合の違いやそれぞれの特徴などを説明します。
-
(1)労働基準監督署
労働基準監督署とは、会社が労働基準法などの労働関係法令を守るように監督する機関です。
労働基準監督署では、労働者からの相談に無料で対応しているため、残業代の未払いになった際は、まずは労働基準監督署に相談する方も少なくありません。
残業代の未払いは労働基準法違反となりますので、労働者からの申告があれば、労働基準監督署は対象の事業所に調査を行い、指導や是正勧告を行います。
ただし、指導や是正勧告には強制力がないため、会社が従わない場合には、労働者個人で会社と交渉をしていかなければなりません。 -
(2)弁護士
弁護士に依頼をすれば、残業代請求に必要となる証拠収集や残業代計算のサポートをはじめ、会社との交渉も任せることができます。労働基準監督署に相談した場合でも、証拠収集、残業代計算、交渉などをすべて労働者個人で行わなければなりませんので、負担を軽減したい方は弁護士への相談がおすすめです。
また、会社との交渉が決裂したときも、弁護士に労働審判や訴訟などの法的手続きを引き続き依頼することができ、解決まで安心して任せることができます。
お問い合わせください。
5、まとめ
残業代が未払いになっている場合、未払い残業代の請求だけでなく遅延損害金を請求することができます。遅延損害金を請求することで、早期解決を促す効果がありますので、未払い残業代だけでなく遅延損害金を含めて会社に請求していくようにしましょう。
会社への残業代請求をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています