残業代はさかのぼって請求できる? 残業代請求の時効と請求までの流れ

2023年12月19日
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残業代はさかのぼって請求できる? 残業代請求の時効と請求までの流れ

会社から残業代が支払われていない場合には、過去の未払い分も含めて請求することが可能です。

本コラムでは、残業代をさかのぼって請求するために必要となる残業代の基礎知識や、残業代を請求するための具体的な手続きの流れについて、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が詳しく解説します。

1、そもそも残業代を請求できるケースとは

まず、残業代の概要や、残業代を請求できるケースについて解説します。

  1. (1)残業代とは割増賃金の支払いのこと

    残業代請求に関する基本的な考え方については、労働基準法第37条に規定されています。
    同条は、使用者に対して、時間外労働、休日労働、深夜労働がなされた場合における「割増賃金」の支払いを義務づけています。
    また、「割増賃金」の支払方法は、通常の労働時間に対する賃金に対して所定の割増率を乗じるものと定められているのです。

    残業代とは、あくまで賃金の支払いの一種となります。
    したがって、残業代の請求に関しては賃金の請求に関するルールが適用されることになるのです

  2. (2)残業代請求には3つのパターンがある

    ① 法定労働時間を超えて働いた場合
    残業代請求ができるパターンの1つめが、「法定労働時間を超えて働いた場合」です

    この法定労働時間とは、「1日8時間以内、週に40時間以内」というルールです(労働基準法第32条)。
    この法定労働時間を超えて働いた場合には、超えた時間分については、通常の労働時間の賃金の計算額の25%以上50%以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率の率で計算した割増賃金が支払われなければなりません(労働基準法第37条1項)。
    この場合、労働基準法第37条第1項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令(以下「割増賃金令」といいます。)によると、政令で定める率は、25%とされています。

    ② 法定休日労働をした場合
    2つめのパターンとしては、「法定休日労働をした場合」です

    ここでいう法定休日とは、「週1回または4週に4回」与えられる休日のことをいいます(労働基準法第35条)。
    法定休日労働をした場合にも、25%以上50%以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率の率で計算した割増賃金が支払われなければなりません(労働基準法第37条1項)。
    この場合、割増賃金令によると、政令で定める率は、35%とされています。

    なお、休日に出勤したとしても法定外休日の場合には、この割増賃金の対象とはなりません。
    また、法定外休日とは、「週1回または4週に4回」という休日よりも余分に使用者が定めている休日のことをいいます。
    たとえば、就業規則などで土・日が休日とされている企業の場合、土曜日に出勤したとしても日曜が休日であれば週に1回の法定休日はすでに確保されているとして、休日労働には該当しない可能性があるのです。
    なお、このような法定外休日に労働したことで週40時間の労働時間のルールを超える場合には、休日労働ではなく時間外労働として割増賃金が支払われることになります。

    ③ 深夜労働をした場合
    3つめのパターンとしては、「深夜労働をした場合」です

    深夜労働に該当するのは、「午後10時から午前5時まで」の間に労働した場合です(労働基準法第37条4項)。
    深夜労働をした場合には、通常の労働時間の賃金の計算額の25%以上の率で計算した割増賃金が支払われなければなりません(労働基準法第37条4項)。

    以上のような割増賃金の算定については、法令の定める方法に従って行う必要があるとは限りません。
    たとえば、使用者が独自に算定して支払った割増賃金が、法令の定める方法によって算定された割増賃金額を上回っていれば、適法となります。
    逆に下回っている場合には、そのような定めは無効となり、足りない差額分を請求することができます(労働基準法第13条)

2、残業代はさかのぼって請求できる?

以下では、残業代はさかのぼって請求することができるのかどうかや、残業代請求権の消滅時効期間について解説します。

  1. (1)過去3年分の残業代についてはさかのぼって請求できる

    未払いの残業代があったとしても、現行法では「3年」が経過すると、それ以前のものについてはさかのぼって請求することはできなくなっています

    労働基準法第115条には、「賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間…場合においては、時効によって消滅する」と規定しています。
    ただし、経過措置として当分の間は賃金の消滅時効期間については、「3年間」とされています(同法第143条3項)。

    賃金支払請求権の消滅時効の起算点は、「これを行使することができる時から」です。具体的には「給料日の翌日から」期間を計算することになります。
    労働者が残業代を含む賃料を受け取ることができるのは給料日であり、民法には「日…によって期間を定めたときは、その期間も初日は算入しない」と規定されているからです(民法第140条)。

    この法律の適用を受ける賃金は、2020年4月1日以降に発生したものです。
    したがって、現在まで長期にわたって残業代が支払われていないという場合には、さかのぼって3年分の支払いを請求することができます

  2. (2)内容証明郵便を送ることで6カ月間は時効の完成が猶予される

    「催告」があった場合には、その時から6カ月を経過するまでの間は、時効は完成しません(民法第150条)。
    この「催告」とは、債権者から債務者に対して債務の履行を請求することを指します。残業代請求に関しては、労働者から会社に対して未払いの残業代を請求することになります。

    この催告の手段としては「内容証明郵便」を利用することが効果的です
    催告は口頭や手紙などでも行うことができますが、内容証明郵便を利用することで、「いつ・誰から・誰に宛てて・どのような内容の書面」が送付されたのかということを、日本郵便株式会社が証明してくれます。
    内容証明郵便で残業代を請求しておくことで、時効の完成猶予事由としての催告になるほか、後になって「請求した」「請求していない」という水掛け論が発生するのを予防することもできます。

3、残業代請求において必要な証拠と請求の流れ

以下では、残業代請求をする場合に必要となる具体的な証拠や、実際に残業代を回収するまでの手続きの流れについて説明します。

  1. (1)残業代請求における必要な証拠

    未払いの残業代を会社に請求するためには、残業代が発生していることを示すための証拠が必要となります。
    具体的には、当該労働者が「どれくらい働いていたのか」ということを正確に立証できるような証拠が求められます。
    したがって、労働者が拘束されていた時間がわかるものであれば、どのような物やデータであっても処分せずに収集や保管をしておきましょう

    特に、以下のような資料については、残業代を請求するための重要な証拠となり得ます。

    • 雇用契約書、賃金規程
    • 給与明細に記載された労働時間
    • タイムカード、勤怠データ、出勤簿、業務日報
    • シフト表
    • 通話記録
    • パソコンのログ履歴
    • システムのログイン・ログアウト時間
    • SuicaなどICカードの改札通過時間の記録
    • 業務に関するメールやチャットワークの送信時間
    • 帰宅に利用したタクシーの領収書
    • 家族に帰宅連絡をするために送ったメールやLINEの時間
  2. (2)残業代を請求する手続きの流れ

    残業代が未払いの場合には、労働者の側から会社・使用者に対して請求していくことになります。
    また、上司や管理者に相談しても未払いが解消されない場合には、会社宛てに内容証明郵便を送付して請求していくことになります。

    請求を行った上で、会社と交渉もすすめて、残業代を支払ってもらうことになります。
    また、もし任意での交渉では会社が支払いに応じない場合や、著しく低い金額で示談しようとしてくる場合には、裁判所を介した手続きも検討しなければなりません

    労使間の話し合いで解決できなかった場合には、裁判所に労働審判の申し立てをしていくことになります。
    労働審判は1名の裁判官(労働審判官)と2名の労働審判員で組織する労働審判委員会が行います。
    まずは調停によって話し合いでの解決を試み、難しい場合には労働審判により判断を下します。
    審判は原則として3回以内の期日で審理を終えることになっているため、迅速な解決が期待できます。

    もし労働審判によっても解決できなかった場合には、不服のある当事者が異議を申し立てることで労働審判は効力を失い、民事訴訟に移行することになります

4、未払い残業代請求を弁護士に依頼するメリット

未払いの残業代を会社に請求するためには、できるだけ早く弁護士に依頼することをおすすめします。

  1. (1)会社とのやり取りを任せられる

    残業代を労働者が請求するのが難しい点は、会社内に主従の関係があることです。
    会社に在籍して働きながらも未払いの残業代を請求していくことは、労働者にとっては精神的にも時間的にも負担になってしまうでしょう。
    弁護士であれば、会社内の人間関係とは独立した第三者として、組織のしがらみを感じることなく活動することができます。

    また、会社という巨大な組織に対して、労働者個人が請求していくことも、その交渉力やマンパワーの点で不利になります。
    しかし、法律の専門家である弁護士に交渉を任せることで、労働者にとって有利な方法で交渉を進めやすくなります

  2. (2)裁判手続についても一任できる

    労働審判や訴訟などの法手続きに進行した場合には、会社も弁護士に依頼する可能性が高まります。

    そのような場合には、労働者も弁護士に依頼して代理人同士で交渉を行った方が、互いに対等な立場で交渉を行うことができ、適正かつ妥当な結論で解決できる可能性も高まります

5、まとめ

3年以内に発生した残業代については、未払いであってもさかのぼって請求できることが可能です。
ただし、残業時間を確定するために証拠を収集して立証する手続きは、労働者個人が行うには負担が大きいため、未払い残業代の請求は弁護士に依頼することをおすすめします。

未払い残業代の請求を検討されている方は、まずはベリーベスト法律事務所までご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています