「人員不足」を理由に有給休暇を拒否された場合の対応を解説
- その他
- 有給休暇
- 拒否
- 人員不足
人員不足などを理由に、会社が従業員の有給休暇取得申請を拒否する場合があります。
しかし、有給休暇の取得を拒否することは、労働基準法に違反する可能性が高いといえます。会社に有給休暇の取得を拒否されて、その理由に納得できない場合には、弁護士に相談することも検討してください。
本コラムでは、人員不足などを理由にして会社が従業員による有給休暇の取得を拒否することの問題点について、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が解説します。
1、会社が有給休暇の申請を拒否するのは違法? 問題ない?
従業員が会社に有給休暇の取得を申請した際に、人員不足などを理由として拒否される場合があります。
しかし、労働基準法の規定に照らせば、会社が従業員による有給休暇の取得申請を拒否することは原則として認められないのです。
-
(1)年次有給休暇とは
年次有給休暇(年休)とは、労働者に対して毎年付与される、賃金の支払いを受けながら休暇を取ることができる制度です。
会社は、その労働者の雇入れの日から起算して6か月間継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、年次有給休暇を付与しなければなりません(労働基準法第39条第1項)。
年次有給休暇の付与日数は、継続勤務期間に応じて以下のとおりです。継続勤務期間 付与日数 6か月以上1年6か月未満 10日 1年6か月以上2年6か月未満 11日 2年6か月以上3年6か月未満 12日 3年6か月以上4年6か月未満 14日 4年6か月以上5年6か月未満 16日 5年6か月以上6年6か月未満 18日 6年6か月以上 20日 -
(2)有給休暇の申請を拒否することは原則不可
原則として、使用者は、労働者の請求する時季に有給休暇を与えなければなりません(労働基準法第39条第5項本文)。
したがって、従業員から有給休暇の取得申請があった場合に、会社がこれを拒否することは原則として認められていないのです。
2、有給休暇に関する「時季変更権」について
有給休暇取得の申請について、例外的に、会社の「時季変更権」が認められる場合があります。
-
(1)時季変更権とは
時季変更権とは、労働者の時季指定に対し、使用者たる会社が、労働者の請求した時季に年休を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季にこれを与えることができる権利です(労働基準法第39条第5項)。
なお、時季変更権は、あくまでも有給休暇の取得時季を変更するためのものであり、取得そのものを拒否することは認められません。
たとえば、具体的な時季を明確にすることなく「繁忙期が過ぎたら」などと時季を曖昧にして先延ばしにしたり、「成果を挙げたら」などと棚上げにしたりすることは、違法な行為である可能性が高いといえます。 -
(2)時季変更権が争われた例
会社の時季変更権が争われた場合としては、以下のような例が挙げられます。
- 会社が使用者として通常の配慮をすれば、代替勤務者の配置が可能な状況であったのに、会社がそのための配慮をしないことで代替勤務者が配置されなかった場合
この例において、最高裁は、会社の時季変更権の行使を違法と判断しました。(最高裁判決昭和62年7月10日) - 職場全体の業務の改善を目的とした訓練の期間中に、労働者から有給休暇の取得申出があった場合
この例において、最高裁は、労働者が訓練を一部でも欠席すると、予定された知識等の修得に不足が生じ、訓練の目的を十分に達成できないとして、会社の時季変更権の行使を適法と判断しました。(最高裁平成12年3月31日判決)
- 会社が使用者として通常の配慮をすれば、代替勤務者の配置が可能な状況であったのに、会社がそのための配慮をしないことで代替勤務者が配置されなかった場合
3、人員不足を理由に有給休暇の申請を拒否された場合の対処法
人員不足などを理由として有給休暇の取得申請を会社に拒否された場合には、以下の手順で対応しましょう。
- ① 拒否の理由を確認する
- ② 別の日程で取得日を調整する
- ③ 時季変更権は認められないことを主張して交渉する
- ④ 労働審判・訴訟で争う
-
(1)拒否の理由を確認する
まずは、会社の時季変更権が認められる場合か否かを判断するため、会社の主張する有給休暇取得拒否の理由を確認することが必要です。
上司や人事部などに連絡をとり、取得拒否の理由を明確にするよう求めましょう。
会社の主張する理由を把握できたら、それが時季変更権の要件を満たしているか否かを労働基準法の観点から検討して、その後の対応を決定する必要があります。
判断が難しければ、弁護士に相談してアドバイスを得ましょう。 -
(2)別の日程で取得日を調整する
会社が主張する取得拒否の理由が、時季変更権の要件を満たしていると思われる場合には、別の日程で有給休暇の取得を申請しましょう。
事前に上司などと話し合い、調整を行ったうえで申請すれば、スムーズに有給休暇を取得できる可能性が上がるでしょう。
会社としては、労働者の有給申請を一切拒否することは認められず、別の時季を指定するように求められた場合は応じなければなりません。
もし会社が具体的な取得時季の指定を拒否する場合には、弁護士への相談を検討してください。 -
(3)労働基準法違反を主張して交渉する
会社が曖昧・不合理な理由で有給休暇の取得申請を拒否した場合には、労働基準法違反であることを指摘して、会社と交渉を行いましょう。
特に、いつまでも有給休暇の取得許可を先延ばしにする態度が会社側に見られる場合には、労働環境を改善するという観点からも、労働者としての権利をはっきりと主張すべきでしょう。
まずは会社との間で協議の場を持ち、法的な根拠を示しながら、有給休暇の取得拒否が違法であることを主張したいところです。
そのためにも、交渉について弁護士にアドバイスを受けたり、協議の場に弁護士が同席したりすることで、説得力のある主張を行うことができ、会社が有給休暇の取得に応じる可能性も高めることができます。 -
(4)労働審判・訴訟で争う
それでも会社が有給休暇の取得に応じない場合には、労働審判や訴訟を通じて争うことも検討しましょう。
(a)労働審判
裁判所で行われる非公開の手続きです。
裁判官1名と労働審判員2名で組織する労働審判委員会が、調停または労働審判によって労使紛争の解決を図ります。
審理が原則として3回以内で終結するため、迅速な解決を期待できる点が大きなメリットです。
(b)訴訟
裁判所で行われる公開の手続きです。
労使紛争では多くの場合、労働者が原告となって請求を行い、会社が被告として反論する形となります。
証拠に基づく厳密な立証が求められるため、審理期間が長期化しやすい傾向にあります。
なお、労働審判に対して異議が申立てられた場合には、自動的に訴訟手続へと移行します。
有給休暇の取得拒否の違法確認に加えて、未払い残業代の支払いなどを併せて請求することも可能です。
弁護士に依頼すれば、労働審判や訴訟などの手続きを代行してもらうことができます。
お問い合わせください。
4、有給休暇の申請拒否など、労働問題の相談先
「有給休暇の取得申請を不当に拒否された」など、会社との間で労働問題が生じた場合には、労働基準監督署や弁護士に相談しましょう。
それぞれの役割などについては、下記のとおりです。
もっとも、会社に対して直接働きかけたい場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
-
(1)労働基準監督署
労働基準監督署は、事業者による労働基準法上の規制などの遵守状況を監督する官公庁です。
労働者は、労働基準監督署(労働基準監督官)に対して、会社による労働基準法違反の事実を申告することができます(労働基準法第104条第1項)。
また、労働基準監督署に申告したことを理由として、会社が従業員に対し解雇その他不利益な取り扱いをすることは禁止されています(同条第2項)。
申告を受けた労働基準監督署は、労働基準法違反の有無を確認するため、事業場に対して臨検(立ち入り調査)を行うことがあります。
臨検の末に違反の事実が発覚した場合には、行政指導によって是正を図るほか、違反者に対して刑事罰が科されるケースもあります。
労働基準監督署による臨検等が行われれば、会社による労働基準法違反は是正される可能性が高いでしょう。
ただし、労働基準監督署はあくまでも官公庁であり中立な立場で対応を行うため、労働者のために行動してくれるわけではないことに留意してください。 -
(2)弁護士
弁護士は、労働者の代理人として、その権利を守るために直接的な対応を行うことができます。
具体的には、会社との協議、労働審判の申立て、訴訟の提起などを、労働者の代理人として行います。
会社による労働基準法違反の是正や金銭の支払いなどを、会社に対して直接的に請求することができるのです。
労働者の方にとって、弁護士は、会社とのトラブルについて何でも相談できる、全面的な味方となります。
有給休暇の取得申請を不当に拒否されたなど、会社との間でトラブルが発生した場合には、弁護士に相談することをご検討ください。
5、まとめ
原則として、会社は、従業員による有給申請を拒否することができません。
繁忙期で人員不足の場合などには、例外的に時季変更権を行使できる場合もあります。
しかし、あくまでも時季を変更できるだけであり、有給取得を一切拒否することは労働基準法違反となるのです。
有給休暇の取得拒否などについて、会社との間でトラブルになってしまった場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
会社とのトラブルに悩んでいる方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
- |<
- 前
- 次
- >|