労災で解雇されそうな場合に労働者がやるべきこと
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2021年度に埼玉県内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働相談の件数は5万4552件でした。
業務上の原因によって負傷した、または疾病にかかった労働者を、使用者が解雇することは、労働基準法第19条第1項により、原則として禁止されています。もし会社によって不当解雇された場合には、自身の権利を守るために、解雇の撤回などを求めて会社と争いましょう。会社と争う際には、弁護士は労働者の心強い味方となります。
本コラムでは、労働災害にあった被災労働者を解雇することの可否や、不当解雇された被災労働者がとるべき対応などについて、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が解説します。
1、被災労働者は原則として解雇禁止|ただし例外あり
業務が原因で負傷した、また疾病にかかった労働者を使用者が解雇することは、原則として禁止されています。
ただし、例外的に解雇が認められる場合もあります。
まずは、被災労働者の解雇が認められる場合と認められない場合について、判断基準を解説します。
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(1)原則|療養期間+30日間は解雇禁止
労働者(従業員)が業務上負傷したり疾病にかかったりした場合には、使用者(会社)は療養期間とその後30日間、被災労働者を解雇することが禁止されます(労働基準法第19条第1項)。
この期間については、普通解雇・整理解雇・懲戒解雇の一般的な要件を満たす場合でも、解雇は禁止されているのです。 -
(2)例外 ①|打切補償が行われた場合
上記の解雇制限期間中であっても、使用者が被災労働者に対して「打切補償」を行った場合には、例外的に解雇が認められます。
打切補償とは、療養補償(労働基準法第75条第1項)を受けている労働者のうち、療養開始後3年を経過しても負傷・疾病が治らない被災労働者に対して、使用者が平均賃金の1200日分の金銭を支払い、療養補償を打ち切るために行う補償のことをいいます(労働基準法第81条)。
使用者によって打切補償が行われた場合には、解雇制限が解除されて、使用者は被災労働者を解雇できるようになります(同法第19条第1項ただし書)。
また、療養開始の3年後以降、被災労働者が労災保険から傷病補償年金を受給し始めた場合には、使用者によって打切補償が行われたものとみなされます(労働者災害補償保険法第19条)。
この場合も、療養期間+30日間の解雇制限が解除されて、使用者は被災労働者を解雇することが可能です。
なお、傷病補償年金が支給されるのは、傷病等級第1級から第3級に該当する負傷・疾病が、療養開始後1年6カ月が経過しても治らない場合です(労働者災害補償保険法施行規則第18条第1項、別表第二)。
この場合には、労働基準監督署長の決定によって傷病補償年金が支給され、これにより休業(補償)給付が打ち切られることになります。 -
(3)例外 ②|やむを得ない事由のために事業継続が不可能となった場合
地震などの天災事変やその他のやむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合には、療養期間+30日間の解雇制限が解除されて、使用者は被災労働者を解雇できます(労働基準法第19条第1項ただし書)。
事業の継続が不可能になると、使用者の側に被災労働者の雇用を続ける資力と理由がなくなってしまうため、例外的に、解雇が認められているのです。 -
(4)通勤災害の場合は解雇規制の対象外
療養期間+30日間の解雇制限が適用されるのは、労働者の負傷・疾病が、業務上発生したものである場合か、女性が出産をする場合です。
このうち、前者の場合は、「業務上」災害であることが、解雇制限の対象となるための要件となります。
これに対して、労働者が通勤中に負傷したり疾病にかかったりした「通勤災害」の場合は、「業務上」の災害ではないため、解雇制限が適用されません。
通勤災害も労災の一種であり、労災保険給付の対象とされていますが、解雇制限については対象外であることに注意してください。
2、不当解雇されそうな被災労働者がとるべき対応
解雇が労働基準法によって制限されている場合や、解雇権濫用の法理(労働契約法第16条)に抵触する場合には、当該解雇は違法・無効となります。
会社に不当解雇された被災労働者は、以下の方法によって対抗しましょう。
- 自分に有利な証拠を残す
- 裁判所に労働審判を申し立てる
- 裁判所に訴訟を提起する
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(1)自分に有利な証拠を取っておく
不当解雇され、これを争いたいと考える場合、まず行うべきなのは、自分に有利な証拠を残すことです。
電話で解雇を通告されたのであれば、電話の内容を録音しましょう。
メールやLINEで解雇を通告されたのであれば、スクリーンショットを保存しておきましょう。
そして、安易に退職届にサインしないようにしましょう。
なお、必ずしも復職にこだわらない場合には、退職金を受け取って合意退職に応じることも交渉上の選択肢の一つとなります。
自身のニーズや会社の交渉態度などを総合的に考慮しながら、対応方針を決定しましょう。 -
(2)裁判所に労働審判を申し立てる
会社が交渉に応じない場合には、裁判所に労働審判を申し立てることを検討しましょう。
労働審判は、労働者と使用者の法的紛争を解決することを目的とした手続です。
裁判官1名と労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、調停(当事者の合意)または労働審判(強制的な判断)によって労使紛争の解決を図ります。
労働審判の審理は原則3回以内で終結するため、特に最初の期日までにきちんと準備を整えることが大切です。
会社に対して解雇理由証明書(労働基準法第22条第1項)の発行を請求して、解雇に関するやり取りを証拠として提出できるようにしておくなど、万全の準備を整えましょう。 -
(3)裁判所に訴訟を提起する
労働審判に対しては、2週間以内に限り異議申し立てが認められています。
当事者によって異議申し立てがなされた場合には、自動的に訴訟手続へ移行します。
また、労働審判を経ることなく、直ちに訴訟を提起することも可能です。
労使間の主張に大きな差があり、労働審判に対する異議申し立てがなされる可能性が高いと考えられる場合には、最初から訴訟を提起したほうが良い場合もあります。
訴訟手続は、労働者側が解雇通告の事実を主張、立証して、会社側が解雇の適法性を主張、立証してそれに反論する、という形で進行します。
最終的に労働者側の解雇無効の主張を認めた場合、裁判所は、労働者が、会社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する判決を言い渡します。
解雇無効の主張を認める判決が確定した場合には、会社は確定判決の内容に従って、労働者の復職を認めなければなりません。
なお、訴訟手続の途中で和解が成立するケースもあります。
会社側から納得できる水準の退職金などが提示された場合には、和解に応じることも選択肢の一つとなるでしょう。
3、労災によって後遺症が残った場合の対処法
労災によって後遺症が残ってしまった場合、就労が難しくなってしまうおそれがあります。そのような場合には、労災保険給付や損害賠償請求により、生活費を確保することが可能です。
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(1)労働基準監督署に障害(補償)給付を請求する
労災による後遺症は、労災保険給付の一つである「障害(補償)給付」の支給対象です。対象となる障害等級に応じて、第1級から第7級の場合は年金を、第8級から第14級の場合は一時金を、それぞれ受給できます。
障害(補償)給付の請求先は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長です。
医師から「治ゆ(これ以上治療を継続しても症状の改善が見込めない状態という意味での)」の診断を受けた後に、速やかに請求を行いましょう。 -
(2)会社に損害賠償を請求する
労災保険の障害(補償)給付は、あくまでも後遺症による逸失利益を補償するものであるため、被災労働者の精神的損害を補塡(ほてん)する慰謝料は補償の対象外となります。
後遺症に関する慰謝料を含めて、労災による損害の補償を十分に受けるためには、会社に対して損害賠償を請求することが必要になります。
具体的には、会社が以下のいずれかの責任を負う場合には、被災労働者は会社に対して損害賠償を請求することができます。- (a)安全配慮義務違反(労働契約法第5条)
生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるように配慮する義務を怠った結果として労災が発生した場合、会社は不法行為(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償責任を負います。 - (b)使用者責任(民法第715条第1項)
被災労働者以外の従業員の故意または過失によって労災が発生した場合、会社は使用者責任に基づく損害賠償責任を負います。
- (a)安全配慮義務違反(労働契約法第5条)
4、労災や不当解雇については弁護士に相談を
労災に伴う不当解雇問題や損害賠償請求については、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、被災労働者の権利を守るため、会社との交渉や訴訟などをサポートします。
労働者は、法律の知見と実務経験を豊富に持つ弁護士に依頼することで、資金力や人員に勝る会社とも対等以上に渡り合うことができます。
労災を理由に不当解雇された方や、労災について会社に損害賠償を請求したい方は、お早めに弁護士にご相談ください。
5、まとめ
業務上の原因によってケガをした、または病気にかかった労働者を解雇することは、原則として違法です。
もし会社から不当解雇されてしまったら、自身の権利を守るため、速やかに弁護士に相談しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、不当解雇やその他の労働問題について、労働者の方からのご相談を承っております。
会社に不当解雇されてしまった被災労働者の方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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