配置転換を拒否された。拒否が認められる正当な理由と企業の対応方法
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令和5年年度に埼玉県内の総合労働相談コーナーに寄せられた民事上の個別労働紛争は延べ9638件で、そのうち313件が出向・配置転換に関するものでした。
会社は人事権の範囲内で、従業員に対して配置転換を命ずることができます。しかし実際には、従業員に配置転換を拒否されてしまうケースもあります。もし従業員に配置転換を拒否されたら、深刻なトラブルへ発展することを避けるため、弁護士にご相談ください。
本記事では、従業員が配置転換を拒否できる正当な理由などについて、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が解説します。
1、配置転換とは? 従業員は拒否できる?
「配置転換」とは、労働者の職務内容、所属部署、勤務地などを変更する人事異動の総称です。従業員は、正当な理由がなければ会社の配置転換命令を拒否できません。
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(1)配置転換の目的・具体例
配置転換の目的は、社内における人員の配置を最適化することです。実際には、以下のようにさまざまな目的で配置転換が行われることがあります。
・労働能力の偏りを解消する
人員余剰が生じている部署から、人員が不足している部署への人事異動命令を行います。
・多様な職務を経験させる
主に総合職の労働者を対象として、社内における多様な職務を経験させるために、数年に1回程度のペースで部署異動をさせます。
・伸び悩む労働者に刺激を与える
現在の部署で伸び悩んでいる労働者に、目先を変えて視野を広げる機会を与える目的で配置転換を行います。
・適性がある部署に異動させる
能力的または性格的に、現在の業務が向いていないと思われる労働者を、適性があると思われる別の部署へ異動させます。
・ハラスメントの当事者を引き離す
ハラスメントの被害者を加害者から引き離して保護するため、いずれか一方を別の部署に異動させます。
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(2)配置転換は、正当な理由がなければ拒否できない
配置転換は、使用者の人事権(指揮命令権)に基づいて行われます。
使用者は労働契約に基づき、労働者に対して業務に関する指示を行うことができます。労働者は正当な理由がない限り、使用者の業務命令を拒否することができません。
配置転換についても、他の業務命令と同様に、従業員が拒否するためには正当な理由が必要です。正当な理由なく配置転換を拒否した従業員に対しては、使用者による懲戒処分が認められる可能性があります。
2、配置転換の拒否が認められる「正当な理由」とは?
従業員が会社の配置転換命令を拒否できる正当な理由としては、以下の例が挙げられます。
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(1)配置転換が人事権の範囲外である
労働契約や就業規則によって認められていない配置転換は、人事権の範囲外であるため認められません。
特に近年では、勤務地、職務、勤務時間などを限定した労働契約を締結する従業員が増加しています。このような従業員は「限定正社員」や「多様な正社員」などと呼ばれています。
たとえば、契約によって転勤が同じ都道府県内に限られている従業員に対し、別の都道府県への転勤を命じることはできません。 -
(2)家族の介護や病気などのやむを得ない事情がある
介護が必要な家族や、重大な病気にかかっている家族がいる従業員に対する、遠方への転勤命令は、人事権の濫用として無効と判断されることがあります。
このような配置転換命令は、従業員に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであり、不当と考えられるためです。
遠方へ転勤させる従業員を選ぶ際には、家族の介護や病気などの事情がないかどうかを事前に確認しましょう。 -
(3)配置転換の動機や目的が不当である
不当な動機や目的による配置転換命令は、人事権の濫用として無効です。
たとえば、上司が「気に入らない」という個人的な感情だけで配置転換を命じた場合や、退職に追い込む目的で全く仕事がない部署へ配置転換をした場合などには、配置転換が無効と判断される可能性が高いでしょう。 -
(4)配置転換に伴って賃金が減額される
配置転換に伴い、対象従業員の賃金を減額する場合は、会社側の広い裁量は認められません。賃金は従業員の生活を支える最も重要な要素であり、労働者の保護を図るべきと考えられるためです。
役職の降格に伴う賃金の減額についても、その適法性が認められるかどうかは厳格に判断されます。
以下のような要素を総合的に考慮した上で、賃金を減額することについて客観的合理性が認められない限り、賃金の減額を伴う配置転換は無効と判断される可能性が高いでしょう。- 労働者の適正、能力、実績
- 労働者の帰責性(責任を負う理由)の有無、程度
- 降格の動機、目的
- 業務上の必要性の有無、程度
- 降格人事の運用状況
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(5)配置転換を行う業務上の必要性がない
配置転換は、あくまでも業務上の必要性がある場合に限って認められます。業務上全く必要がない配置転換命令は、人事権の濫用として無効です。
ただし、配置転換に関する業務上の必要性は、比較的広く認められる傾向にあります。
従業員に多様な経験を積ませることや、人員配置のバランスを改善することなど、何らかの合理的な目的が認められやすいためです。
嫌がらせや報復などの不当な目的によるものでない限り、業務上の必要性がないことを理由に配置転換が無効と判断される可能性は低いと考えられます。
3、従業員に配置転換を拒否されたら? 会社側の対応
配置転換を命じたものの、従業員に拒否されてしまったら、会社としては以下の対応によって解決を図りましょう。
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(1)配置転換を拒否した理由を聞く
従業員が配置転換を拒否した背景には、家族の介護や病気など、何らかのやむを得ない事情があるのかもしれません。そのような事情を見落としたまま配置転換を強行すると、人事権の濫用として無効と判断されるおそれがあります。
配置転換を拒否した従業員に対しては、まずその理由を聞きましょう。 -
(2)配置転換の必要性を丁寧に説明する
配置転換を拒否している従業員も、業務上の必要性があることを理解すれば、考え直して配置転換に応じるかもしれません。
特に、自分でなければできないような役割を期待されていることが分かれば、配転先での仕事にやりがいを感じてもらえる可能性があります。配置転換を拒否した従業員に対しては、なぜ指名したのかを丁寧に説明しましょう。 -
(3)待遇の改善などを提案して交渉する
配置転換後の業務が大変そう、好みでないなどと感じていても、待遇改善が期待できる場合は、配置転換に応じるという従業員もいます。
配置転換を拒否する従業員に対しては、何らかの待遇改善を提案してみましょう。賃金アップのほか、福利厚生の充実化などを提案することも考えられます。 -
(4)懲戒処分を検討する
正当な理由なく配置転換を拒否する従業員に対しては、懲戒処分を行うことも検討しましょう。
ただし、従業員の行為の性質や態様などに照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は無効です(労働契約法第15条)。特に、懲戒解雇のような重い懲戒処分については、その有効性が厳格に判断されます。
配置転換の拒否を理由に懲戒処分を行うと、従業員側が反発して争いへ発展する可能性があります。もしそうなった場合に、会社として適切に懲戒処分の理由を説明できるようにしておくことが大切です。
懲戒処分を行う前に、従業員の配置転換拒否が懲戒事由に該当するか、どの種類(重さ)の懲戒処分が妥当であるかなどを慎重に検討しましょう。
4、配置転換に伴うトラブルを弁護士に相談すべき理由
配置転換について、従業員とのトラブルが発生しそうな場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、従業員の配置転換に関するトラブルの予防や対応について、主に以下のサポートを行っています。
- 雇用契約書や就業規則の見直しに関するアドバイス
- 配置転換命令の妥当性に関するアドバイス
- 従業員が配置転換を拒否した場合には、正当な理由の有無に関する検討
- 配置転換を拒否した従業員の懲戒処分に関するアドバイス
- 従業員との交渉、労働審判、訴訟などの代理
弁護士のサポートを受けることにより、従業員とのトラブルを効果的に予防し、また実際に発生したトラブルをスムーズに解決できます。
配置転換に関するトラブルは、早い段階で弁護士にご相談ください。
お問い合わせください。
5、まとめ
従業員は原則として、会社の人事権に基づく配置転換を拒否できません。ただし、家族の介護や病気など、正当な理由がある場合には、配置転換の拒否が認められることがあります。
もし従業員に配置転換を拒否されたら、会社は従業員とのコミュニケーションを大切にしながら、適切な対応を検討しましょう。万が一、従業員とのトラブルが発生してしまったら、速やかに弁護士へ相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、人事・労務に関する企業のご相談を随時受け付けております。従業員の配置転換に関するトラブルにお悩みの企業は、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスへご相談ください。
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