職場における合理的配慮とは? 企業が押さえておくべきポイント

2022年09月15日
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職場における合理的配慮とは? 企業が押さえておくべきポイント

埼玉労働局が令和3年12月に発表した「令和3年 障害者雇用状況の集計結果」によると、同年中の埼玉県内の民間企業(43.5人以上規模の企業)における雇用障害者数は平均で約16.5人、実雇用率は2.32%であり、いずれも過去最高となりました。

身体障害者や発達障害者が社会で活躍する機会を確保するため、各事業者には、障害のある採用候補者や従業員に対する「合理的配慮」を行うことが求められています。事業者は、障害者雇用促進法・障害者差別解消法の規定を正しく理解して、障害者フレンドリーな職場環境を構築するように努めましょう。

本コラムでは、障害者に対する合理的配慮について事業者が留意すべきポイントを、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が解説します。

1、障害のある労働者に対する「合理的配慮」とは

「障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)」および「障害者差別解消法(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」では、各事業者(事業主)に対して、障害者に対する「合理的配慮」を行うことを求めています。

  1. (1)合理的配慮に関する法律上の規定

    障害者雇用促進法では、障害者に健常者と同等の雇用機会および待遇を確保するため、募集・採用時と雇用後の各段階において、障害の特性に配慮した必要な措置を講ずることを事業者に義務付けています(障害者雇用促進法第36条の2~第36条の4)。

    障害者差別解消法では、社会的障壁の除去の実施について障害者からの要望があった場合に、その実施に伴う負担が過重でないときは、必要かつ合理的な配慮をすることを事業者の努力義務としています(障害者差別解消法第8条第2項)。
    なお、障害者差別解消法の改正により、令和6年6月までに、上記の努力義務は義務化される予定です

  2. (2)合理的配慮に関する基本的な考え方

    障害者雇用促進法第36条の5に基づき、厚生労働大臣が定めた「合理的配慮指針」では、障害者への合理的配慮に関する基本的な考え方として、大要以下の4点を挙げています。

    1. ① 合理的配慮は、個々の事情を有する障害者と事業者の相互理解の中で提供されるべきであること。
    2. ② 事業主が必要な注意を払っても、雇用する労働者が障害者であることを知り得なかった場合には、合理的配慮の提供義務違反を問われないこと。
    3. ③ 事業主の過重な負担にならない範囲で、選択し得る合理的配慮に係る措置が複数ある場合には、当該障害者の意向を十分尊重したうえで、より提供しやすい措置を講ずることは差し支えないこと。
      また、障害者が希望する合理的配慮に係る措置の負担が事業主にとって過重である場合、当該障害者の意向を十分尊重したうえで、過重な負担にならない範囲で合理的配慮に係る措置を講ずること。
    4. ④ 障害者も共に働く一人の労働者であるとの認識の下、事業主や同じ職場で働く労働者が、障害の特性に関する正しい知識の取得や理解を深めることが重要であること。


    全体的には、事業主と障害者が十分に話しあったうえで、事業者にとって過重な負担にならず、かつ障害者のニーズを満たせる配慮措置を考案・実施することが求められているのです。

2、職場で障害者に対する合理的配慮が必要となるケース

障害者雇用促進法および障害者差別解消法に基づき、事業者が障害者に対して合理的配慮を行うべきケースとしては、以下のようなものがあります。

  1. (1)労働者の募集・採用を行う場合

    障害者雇用促進法第36条の2に基づき、事業主が労働者の募集・採用を行う際には、採用候補者である障害者からの申し出により、障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければなりません。
    同条に基づく配慮措置は、障害者と健常者との間で均等な雇用機会を確保することを目的としています

    ただし、事業主は、自ら過重な負担を負ってまで上記の配慮措置を講ずる必要はありません。
    実施する配慮措置の具体的な内容については、事業主と採用候補者である障害者とで十分に話し合ったのちに決めるべきでしょう。

  2. (2)障害のある労働者を雇用した場合

    障害者雇用促進法第36条の3に基づき、事業主が障害のある労働者を雇用した場合には、労働者が職務を円滑に遂行できるように、障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければなりません。
    同条に基づく配慮措置は、障害者社員に健常者と均等な待遇を確保して、または労働者の能力を有効に発揮してもらうことを目的としています

    なお、事業主が自ら過重な負担を負ってまで上記の配慮措置を講ずる必要がない点は、募集・採用時の配慮措置と同様です。

  3. (3)その他、事業の遂行時に障害者と関わる場合

    障害者差別解消法第8条第2項に基づく合理的配慮措置は、事業者の採用候補者および雇用する労働者に限らず、その他の障害者についても適用されます

    たとえば、顧客や取引先などの関係者に障害者がいる場合、事業者は社会的障壁を除去するために、障害の状態等に応じた必要かつ合理的配慮をするように努めなければならないのです。

3、障害者雇用に関する合理的配慮の検討手順

障害者雇用促進法に定められる、障害者に対する配慮措置を適切に実施するためには、計画的な検討や取組が重要になります。

各事業者は、障害者フレンドリーな職場の構築を目指すために、以下の手順で障害者雇用に関する合理的配慮の検討を進めるようにしましょう。

  1. (1)障害者雇用の基礎理解を社内に浸透させる

    会社全体で障害者に対する合理的配慮に取り組むためには、まずは役員・従業員などの構成員の間で、障害者雇用に関する基礎理解を浸透させることが大切です。

    • 障害者雇用の制度
    • 障害特性と配慮事項
    • 障害者就労支援機関


    上記の事項について、経営者が積極的に理解を深めて模範を示しながら、従業員研修などを通じて社内全体の理解と意識の向上を図りましょう。

  2. (2)採用計画の検討・採用準備

    障害者雇用の基礎理解が社内にある程度浸透したら、障害者の採用計画の検討・立案を行いましょう。
    採用計画の策定にあたっては、障害者雇用促進法の規定や自社の方針などをふまえたうえで、以下の事項を取り決めておく必要があります。

    • 障害者の職務内容
    • 障害者の採用人数
    • 障害者の採用時期
    • 障害者の労働条件


    また、障害者の採用活動および採用後の就労については、社内の各部署に対して必要な協力を求めることになります。
    採用計画の内容を関係各部署に共有したうえで、対応方針を各部署で検討するように促しましょう。

  3. (3)障害者を含めた労働者の募集活動・採用後支援の準備

    障害者の採用計画が固まり、採用準備の方向性が定まったら、実際に障害者を含めた労働者の募集を行いましょう。

    障害者からの採用応募を受けた場合、事前に作成したマニュアル等をふまえて対応するだけでなく、各障害者の希望や事情をふまえた対応を行う必要があります
    障害の内容は千差万別であり、個々の障害者に応じた対応が求められるからです。
    採用面接等を実施する前の段階で、応募フォームなどを通じて、障害の有無や希望する配慮措置の内容をヒアリングしましょう。

    また、実際に障害者を雇用した場合に備えて、募集活動の段階から採用後の支援の準備を整えておきましょう。

  4. (4)障害のある労働者を職場に定着させる取組

    障害のある労働者は、自分の能力を満足に発揮できず、早期に離職してしまうケースも少なくありません。
    そのため、障害のある労働者ができる限り長く職場に定着できるような取組を行うことが、事業者には求められます。

    雇用する障害者が確定したら、就労にあたって何が支障となるのかを特定して、解決策について障害者本人と話しあいましょう
    もし障害者が希望する配慮措置が事業者にとっての負担が過重なために実施できない場合には、その旨と理由を障害者本人に説明して、納得を得たうえで調整を行うことが求められます。

4、障害者に対する合理的配慮を欠いた事業者が受けるペナルティー

障害者に対する合理的配慮を欠いても、事業主が刑事罰や過料を受けることはありません。
しかし、厚生労働大臣による助言・指導・勧告の対象となる可能性はあります(障害者雇用促進法第36条の6、障害者差別解消法第12条)。
また、「障害者への配慮がない会社だ」という評判が広まると、企業のイメージが毀損されるおそれもあります。

多様性やバリアフリーの重要性が注目されている昨今では、社会的責任を果たして、社会全体にポジティブなイメージを与えるためにも、障害者に対する合理的配慮を実践することは企業にとって非常に重要なことなのです

5、まとめ

各事業者は、障害者雇用促進法および障害者差別解消法に基づき、社内外の障害者に対して合理的配慮を行う必要があります。

企業の社会的責任という観点からも、障害者に対する合理的配慮を実践することは非常に重要です
必要に応じて弁護士に相談しながら、自社の実情に即した配慮措置の内容を検討しましょう。

ベリーベスト法律事務所では、障害者雇用に関するご相談も承っております
障害者雇用をご検討中、または事業において障害者と関わる機会のある事業者の方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にお問い合わせください。

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