養育費を勝手に減額されたらどうすればいい? 対処法を弁護士が解説

2024年09月11日
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養育費を勝手に減額されたらどうすればいい? 対処法を弁護士が解説

2021年、埼玉県での離婚件数は1万626件でした。離婚の際、重要なのが財産分与などの金銭の取り決めですが、子どもがいる夫婦の場合は、子どもの監護・教育のために「養育費」について合意しておくことも大切です。

厚生労働省の調査によると、母子家庭の養育費の受給率は24.3%と大変低くなっています。また、なかには勝手に養育費を減額されてしまうようなケースもあります。

では養育費を勝手に減額されてしまった場合、どのような対応をとることができるのでしょうか? ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が解説していきます。


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1、養育費は勝手に減額していいの?

そもそも、離婚時に養育費について夫婦で合意していた場合、勝手に減額することは認められることなのでしょうか?

結論からいうと、養育費についての取り決めを書面にしている場合、勝手に減額することは認められません。ただし、書面を「離婚協議書」か「公正証書」にしているかでその後の対応が分かれるため、それぞれのケースを解説していきます。

  1. (1)公正証書がある場合

    「公正証書」は公証役場で「公証人」といわれる公務員に作成してもらえる公文書のことです。夫婦の離婚協議で合意した内容を書面にした「離婚協議書」と比べると、証拠力が高く、紛失・改ざんを防げるという特徴があります。

    この公正証書に「強制執行認諾文言」を入れておくと、養育費が滞ったり勝手に減額されたりした場合に元配偶者の給料や預貯金を差し押さえることができるのです。「強制執行認諾文言」とは「養育費の支払い義務者が義務を怠った場合は、強制執行を受けることに同意した」などの文言を指します。

    強制執行認諾文言付きの公正証書がある場合は、調停や訴訟を行わずに相手に対して強制執行することができるのです。

  2. (2)公正証書がない場合

    勝手に養育費を減額されることは、公正証書がない場合であっても認められることではありません。しかし、公正証書がないと強制執行をすることができないのです。公正証書がないケースで強制執行をしたい場合は後に解説しますが「債務名義」をとる必要があります。

2、養育費の減額が認められるケース・認められないケース

勝手に養育費を減額することは認められる行為ではありません。ただし、養育費の減額について話し合いの上で同意したり、裁判で取り決め直したりといった正当な手続きをすれば、養育費の減額が認められるケースがあります。

認められるケース・認められないケースをそれぞれみていきましょう。

  1. (1)養育費の減額が認められるケース

    減額が認められる主なケースをご紹介します。

    ① 元配偶者の収入がやむを得ず減った
    養育費を支払う側の収入が、やむを得ない理由で減少した場合は養育費の減額が認められる可能性があるでしょう。やむを得ない理由は以下の通りです。

    • 病気や怪我をして働けなくなった
    • 会社都合でリストラされた
    • リストラされ転職して収入が減った


    ② 受け取り側の収入が大幅に増加した
    就職や転職、昇進や起業によって、離婚後に受け取り側の収入が想定外の大幅な増加をした場合に限り、養育費の減額が認められる場合があります。離婚時に収入の増加を見込んだ上で養育費の金額を決めていた場合はその限りではありません。

    ③ 元配偶者が再婚して扶養家族が増えた
    養育費を支払う側が再婚をして扶養家族が増えることがあります。再婚相手が専業主婦だった場合や再婚相手の連れ子と養子縁組した場合、再婚相手との間に子どもがうまれた場合などです。その場合、減額が認められる可能性があるでしょう。

    ④ 再婚して再婚相手と連れ子が養子縁組を結んだ
    養育費を受け取る側が再婚して、その再婚相手と連れ子が養子縁組を結んだ場合、養親である再婚相手も子どもの扶養義務を負うことになります。その場合は、再婚相手に収入がない場合は別ですが、通常減額または免除が認められるでしょう。

  2. (2)養育費の減額が認められないケース

    減額が認められないケースは以下の通りです。

    ① 元配偶者の自己都合退職により収入が減った
    支払う側の自己都合退職によって収入が減ることはやむを得ない事情とはいえないため、養育費の減額は認められる可能性が低いでしょう。

    減額が認められるのは病気や怪我で働けない場合や会社都合でリストラされた場合などの「やむを得ない事情」がある場合に限られます。

    ② 子どもとの面会交流を拒否した
    面会交流の拒否を理由に養育費を減額することが認められる可能性も低い
    でしょう。

    親権者にならなかった親と子どもが交流する「面会交流」を、仮に何らかの理由で拒否した結果「子どもと会えないなら養育費は減額する」と主張されたとしても、養育費の支払いは面会交流をするための対価ではありません。

    そのため、子どもとの面会交流の拒否が減額の正当な理由と認められる可能性は低いといえます

3、養育費を勝手に減額された場合の対処法

養育費の減額が認められるケースであっても勝手な減額は認められません。養育費を勝手に減額されてしまった場合の対処法は以下の通りです。

  1. (1)債務名義を準備する

    後に解説する「履行勧告」や「強制執行」などの制度を利用するために、「債務名義」という文書を準備しておく必要があります。「債務名義」に該当する主な文書は以下の通りです。

    • 強制執行認諾文言付きの公正証書
    • 調停調書
    • 審判書
    • 和解調書
    • 判決書


    強制執行認諾文言付きの公正証書は夫婦間協議で作成する文書ですが、それ以外は調停や審判、裁判を行って裁判所に作成してもらう文書です。「離婚協議書」は債務名義に該当しません。

    また、公正証書はあっても「強制執行認諾文言付きの公正証書」がない場合は、「養育費調停」を行う必要があります。

  2. (2)内容証明郵便で未払い分の養育費を請求する

    「内容証明郵便」は、発送日や発送場所、文書の内容や差出人と受取人が誰なのかを郵便局が証明してくれる制度です。内容証明郵便で未払い分の養育費を請求することで、相手に「養育費を支払わないと裁判になるかもしれない」というプレッシャーを与え、養育費を支払ってもらえる場合があります。

    ただし、内容証明郵便には強制力はなく、あくまでも催促にとどまるため、必ずしも支払ってもらえるとは限りません。

  3. (3)履行勧告・履行命令の制度を利用する

    債務名義がある場合、「強制執行」をすることができますが、「履行勧告」や「履行命令」という制度も利用することができます。ただし、これらの制度は、裁判所に作成してもらった債務名義がある場合に利用できるため、「強制執行認諾文言付きの公正証書」では制度を利用できません。

    「履行勧告」と「履行命令」はどんな制度なのか解説していきます。

    ① 履行勧告
    「履行勧告」は、裁判所から養育費の支払い義務者に対して「義務を履行しなさい」と促してもらう制度です。罰則や法的拘束力がないため支払いに応じてもらえない場合もあります。

    ② 履行命令
    「履行命令」は、裁判所から「期限内に取り決め通りに支払いなさい」というように、支払い義務者に義務の履行を命令してもらう制度です。履行命令に従わない場合は10万円以下の罰金(過料)を課される可能性があります(家事事件手続法290条第5項)。

    「履行勧告」と「履行命令」は裁判所からの支払い催促のため、内容証明郵便よりも応じてもらえる可能性はあるでしょう。ただし、「履行命令」の罰金は養育費を受け取る側に入るわけではありません。そのため、これらの制度を利用しても、必ずしも養育費の問題が解決するとは限らないのです。

  4. (4)裁判所に調停を申し立てる

    離婚後に債務名義を取得していない場合、「養育費の調停」を家庭裁判所に申し立てましょう

    調停とは裁判官や調停委員といった第三者を交えて話し合い、争いを解決する制度です。調停が成立すると「調停調書」を作成してもらい、不成立だと自動的に「審判」に移行して裁判官に判断を下され、「審判書」を作成してもらいます。

    ちなみに、離婚後に養育費について裁判上で決めたい場合は必ずしも「調停」から行う必要はなく、いきなり「審判」を行うことも可能です。

  5. (5)強制執行する

    相手が養育費の減額分を支払うそぶりも見せない場合、債務名義があれば「強制執行」をすることができます。支払い義務者の住所を管轄する地方裁判所に対して申し立てを行うことで、義務者の給料や預貯金を差し押さえが可能になるのです。

4、養育費を勝手に減額されてお困りなら弁護士にご相談を

養育費を勝手に減額されてお困りなら、まずは弁護士にご相談ください。どう対処するべきなのか、養育費の調停や審判の申し立て手続きの方法などへのアドバイスを受けることができます。相手と直接顔を合わせたくない場合は交渉を弁護士に任せることも可能です。

また、元配偶者から養育費の減額請求や養育費減額調停を申し立てられた場合の対応も、一任できます。減額が認められるケースなのか、認められる場合の妥当な金額はいくらなのか、自分に不利な条件になることを防ぐためには法律の知識が不可欠ですなるべく早い時点で弁護士に相談することをおすすめします

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5、まとめ

離婚時に合意していた養育費の金額を勝手に減額することは認められません。

養育費を勝手に減額されてしまった場合は、内容証明郵便による未払い分の請求や強制執行などの対処法があります。

養育費が減額された、不払いになってしまったなど、離婚後のお悩みや法的な対応についてお困りの場合は、離婚問題の解決実績があるベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士にぜひご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています