夫婦(婚姻)関係が破綻していた場合の不貞行為│慰謝料請求できる?

2024年05月21日
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夫婦(婚姻)関係が破綻していた場合の不貞行為│慰謝料請求できる?

埼玉県の人口動態概況によると、2022年の埼玉県では1万259組の夫婦の離婚が成立しました。

よくある離婚原因のひとつに「配偶者の不貞行為」がありますが、婚姻中の不貞行為は夫婦の「貞操義務」に反することから、離婚や慰謝料請求の根拠になります。では夫婦関係が破綻している状況で配偶者が不貞行為をした場合、慰謝料を請求することは可能なのでしょうか?

夫婦関係破綻や不貞行為の定義、慰謝料請求できるかについてベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が解説していきます。

1、「夫婦(婚姻)関係破綻」が認められる状況とは

「夫婦関係破綻」は具体的にどのような状況のことを指すのでしょうか? 「夫婦関係破綻」の定義や具体的な状況について解説していきます。

  1. (1)夫婦関係破綻の定義

    夫婦関係破綻とは「夫婦として婚姻を継続する意思がなく、夫婦関係が修復不可能なほど悪化している状態」のことです。「婚姻関係破綻」ともいいます。

    「夫婦関係破綻」が認められるかどうかは離婚や慰謝料請求に大きな影響があります。具体的な状況を次にみていきましょう。

  2. (2)夫婦関係破綻の認められる状況

    夫婦には法律上「同居」「協力」「扶助」の義務がありますこれらの義務を果たさず、修復不可能な状況に陥っていると「夫婦関係破綻」が認められやすいです。以下、3つの具体的な状況を解説します。

    ① 法定離婚事由によって夫婦関係が悪化している
    法定離婚事由とは、法律が認めた「離婚原因」のことです。離婚するか否か夫婦でもめて裁判へ発展した場合に、「法定離婚事由」があると裁判所に離婚を認められやすくなります。

    民法770条で認められている5つの法定離婚事由は以下の通りです。

    • 配偶者の不貞行為
    • 悪意の遺棄
    • 配偶者の生死が3年以上不明
    • 配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがない
    • その他婚姻を継続し難い重大な事由


    この中で1番抽象的でわかりにくいのが「その他婚姻を継続し難い重大な事由」ですが、ケース・バイ・ケースではありますが、以下のような事由がこれに該当します。

    • 性格の不一致
    • 暴力やモラハラ
    • 家事や育児への不参加
    • 配偶者の親族との不和
    • 過度な宗教活動
    • ギャンブル
    • 性的不一致
    • 犯罪による服役


    ここで注意したいのが「法定離婚事由がある=夫婦関係破綻」ではないということです。これらが原因で、夫婦関係が修復不可能なほど悪化している状況になってはじめて「夫婦関係破綻」と認められる可能性が出てきます。

    ② 長期間別居・家庭内別居している
    正当な理由がないにもかかわらず、別居期間が5年以上の長期間に及んでいる場合は、夫婦の「同居義務」を守れておらず、夫婦関係破綻が認められやすいでしょう。正当な理由は主に以下の通りです。

    • 単身赴任による別居
    • 病気や怪我による入院
    • 親の介護のための別居
    • 子どもの学校のための別居


    また、同居はしていても「会話がない」「顔を合わせない」「家計を別々にしている」などの状態、いわゆる「家庭内別居」が長期間続いている場合も夫婦関係破綻が認められる可能性があります。

    ただし、別居と比べると家庭内別居は夫婦関係が破綻しているかどうかの判断が難しい傾向があるでしょう。

    ③ 離婚協議や離婚調停を行っている
    離婚について夫婦間で話し合うことを「離婚協議」といいます。「離婚協議」を行っていて、離婚については合意しており、離婚条件についての話し合いをしているような状況では、良好な夫婦関係は維持できているとはいえません。そのため夫婦関係が破綻していると認められる可能性が高いでしょう。

    また、家庭裁判所に申し立てて「離婚調停」を行っている場合も夫婦関係破綻と見なされる可能性は高まります。離婚調停とは調停委員や裁判官を交えた話し合いによって争いを解決する制度です。

    このように協議や調停など、具体的に離婚に向けた行動を起こしていれば、夫婦関係破綻が認められやすいでしょう。

2、「不貞行為」の定義とは

不貞行為とはそもそもどのようなことを指すのでしょうか。不貞行為の定義と不貞行為に該当するケース・しないケースを解説していきます。

  1. (1)不貞行為の定義

    「不貞行為」とは、婚姻や婚約をしている者が、配偶者以外と自分の意思で肉体関係を持つことです。

    以前は配偶者以外の「異性」が相手の場合が不貞行為であり、「同性」が相手の場合は不貞行為に当たらないという判断が裁判でもされてきました。しかし近年性的マイノリティーへの認識の変化に伴い「同性」が相手でも不貞行為と判断されるケースが出てきているのです。

    ちなみに、既婚者が配偶者以外と関係を持つ場合に使われる言葉に「不貞行為」以外にも「不倫」という言葉がありますが、「法律用語か否か」という違いがあります。「不貞行為」は法律用語ですが、「不倫」は法律用語ではありません。そのため、2つの言葉の意味はほぼ同一と考えてよいでしょう。

  2. (2)不貞行為に該当するケース

    不貞行為に該当するケースの具体例として、以下が挙げられます。

    • 配偶者以外の相手と肉体関係を結んだ(性器の挿入やペッティング)
    • 売春や風俗で肉体関係を結んだ
    • ラブホテルに配偶者以外と滞在する
    など
  3. (3)不貞行為に該当しないケース

    以下のケースは不貞行為に該当しません。

    • 食事やドライブなどのデートをする
    • メールや電話のやりとりのみしている
    • 同意をしていない性行為(本人が望まずにした性行為)
    など

3、夫婦関係破綻中の不貞行為はどのように見なされる?

原則として「不貞行為」は婚姻や婚約をしている者が配偶者以外と自分の意思で肉体関係を持つことです。では婚姻中ではあるものの夫婦関係がすでに破綻している時点での不貞行為も、慰謝料請求の対象となるのでしょうか?

結論からいうと、夫婦関係破綻中に配偶者以外と肉体関係を持つ行為は不貞行為と見なされず、「精神的苦痛を受けた」とも見なされないことから慰謝料請求が認められない可能性が高いでしょう

そもそもなぜ不貞行為が慰謝料請求の対象や法定離婚事由になるのかというと、「貞操義務違反によって夫婦の平穏な生活を送る権利を侵害される」不法行為だからです。

そのため夫婦関係が破綻している状態は「法律上保護されるべき夫婦の利益がすでに失われている状態」であるため、配偶者以外と肉体関係を持つ行為は不貞行為・不法行為とは見なされません。

4、夫婦関係破綻と不貞行為のタイミングによっては慰謝料請求できる

前述の通り、夫婦関係破綻中に配偶者以外と肉体関係を持つ行為は不貞行為と見なされないため、慰謝料を請求することは難しいでしょう。

ただし、夫婦関係破綻のタイミングや不貞行為の開始時期によっては慰謝料請求ができるケースもあります。

  1. (1)慰謝料請求できるケース

    「実は夫婦関係が破綻する前から不貞行為が始まっていた」という場合は、慰謝料を請求できる可能性が高くなります。

    また、夫婦げんかをして頭を冷やすために数日間だけ別居をしていた間に配偶者以外との肉体関係が始まったような場合は、まだ夫婦関係が破綻しているとはいえないため慰謝料請求が可能でしょう。

    なお、不貞行為の慰謝料の金額は不貞行為の期間の長さや回数の多さに影響を受けるため、別居の前から長期間不貞行為をしていたような場合の慰謝料は高額になるでしょう。

  2. (2)慰謝料請求できないケース

    ただし、夫婦関係破綻前から不貞行為があった場合であっても、それを証明することができなければ、配偶者以外との肉体関係は夫婦関係破綻後に始まったと判断されてしまうおそれがあります。

    この点、別居後に発覚した場合は別居前からの不貞行為の証拠を自分で集めることは難しいため弁護士や調査会社に依頼をすることをおすすめします。

    また、正当な理由がなく別居してから5年以上たって発覚した場合でも、夫婦関係はすでに破綻していることから慰謝料請求は無効になる可能性が高いです。

5、まとめ

夫婦関係破綻中に配偶者以外と肉体関係を持つ行為は、夫婦関係破綻が認められた場合、慰謝料請求が認められない可能性があります。

ただし、夫婦関係破綻が認められるためには夫婦それぞれの状況が判断されるため、たとえば冷却期間として数日だけ別居をしたなどの場合は夫婦関係が破綻しているとは見なされないでしょう。

配偶者の不貞行為による慰謝料請求や離婚のトラブルでお悩みの際には、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士にご相談ください。離婚問題の解決実績がある弁護士がトラブルの解決に向けて尽力いたします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています