枕営業は不倫になる? 相手に対して慰謝料は請求できる?
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夫が、ホステスやクラブのママと不倫している、という方もいらっしゃるでしょう。このとき、相手には恋愛感情がなく、いわゆる「枕営業」として不倫している場合があります。
夫が一般の女性と恋愛感情を伴う不倫関係になった場合には、相手に対して慰謝料を請求することができます。そして、恋愛感情のない枕営業であっても、性行為をした場合には、法律的には「不貞行為」となり、相手に対して慰謝料を請求することができるのです。
本コラムでは、枕営業と不倫の関係と慰謝料請求の流れについて、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が解説します。
1、「枕営業」とは
枕営業とは、性的なサービスを対価に、業務を有利に進めようとする不当な営業行為をいいます。
枕営業という言葉は、ホストクラブやキャバクラなどの水商売や風俗などにおいて、特に多く用いられます。
たとえば、クラブやキャバクラのホステスなどは、お客さんから指名をもらい売り上げを増やすために、お客さんと肉体関係を持つことがあります。これも、「枕営業」の一種といえます。
また、枕営業による性交渉は、あくまでも営業目的であるため、通常は、恋愛関係は伴わないと考えられるでしょう。
2、枕営業は不貞行為?
以下では、ホステスや風俗嬢による枕営業が、法律上の「不貞な行為」(民法第770条第1項第1号)に当たるか否かについて解説します。
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(1)不貞行為とは?
判例(最判昭和48年11月15日)によると、「不貞な行為」とは、「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」をいいます。
「不貞な行為」に当たるかどうかの基準は、いわゆる「肉体関係」があったかどうかです。
単にデートをしたり、食事をしたりしただけでは、「不貞な行為」には当たりません。
民法770条1項1号では、不貞行為は法定離婚事由として規定されています。
したがって、不貞行為があった場合には、たとえ不貞行為をした配偶者が離婚を拒否していたとしても、裁判によって離婚をすることができます。
また、不貞行為は、「婚姻共同生活の平和の維持」という権利または法的保護に値する利益を侵害する不法行為(民法709条)に当たるため、不貞行為をした配偶者および不倫相手に対して、慰謝料を請求することもできます。 -
(2)枕営業と不貞行為に関する裁判例
以下では、ホステスなどが行う枕営業が不貞行為に当たるかどうかについて、過去の裁判所の判断を紹介します。
【東京地裁平成26年4月14日判決】
クラブのママ(被告)が客である既婚男性との間で継続的な性行為をしてきたため、既婚男性の妻(原告)は、クラブのママに対して、不貞行為を理由とする慰謝料などを請求したという事案です。
裁判所は、「ソープランドに勤務する女性のような売春婦が対価を得て妻のある顧客と性交渉を行った場合には、当該性交渉は当該顧客の性欲処理に商売として応じたに過ぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから、たとえそれが長年にわたり頻回に行われ、そのことを知った妻が不快感や嫌悪感を抱いて精神的苦痛を受けたとしても、当該妻に対する関係で、不法行為を構成するものではない」としました。
その上で、クラブのママやホステスによる、いわゆる「枕営業」であっても、上述した「売春婦が対価を得て妻のある顧客と性交渉を行った場合」と別異に扱う理由はないとして、不法行為(不貞行為)には当たらないと判断しました。
【東京地裁平成30年1月31日判決】
クラブのホステス(被告)が既婚男性と3年以上にも及ぶ継続的な不貞行為をしてきたため、既婚男性の妻(原告)は、ホステスの女性に対して、不貞行為を理由とする慰謝料請求をしたという事案です。
裁判所は、ホステスの行為がいわゆる枕営業にあたるものであったとしても、当該行為によって婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害するとして、不貞行為に該当すると判断しました。
上記のように、枕営業が不貞行為にあたるかどうかについては、裁判所の判断は分かれています。
ただし、枕営業が不貞行為にあたることを否定した裁判例は特殊な事案であり、一般化することはできません。
そのため、夫が枕営業によってホステスなどの肉体関係を持った場合には、相手に対して慰謝料を請求できるかどうか、まずは専門家である弁護士に相談してみましょう。
3、慰謝料請求の流れ
不貞行為を理由として、不倫相手に慰謝料請求をする場合には、以下のような流れで行います。
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(1)不貞行為の証拠を集める
不貞行為を理由に慰謝料請求をするためには、まずは、不貞行為をしたという証拠を集めなければなりません。
相手が不貞行為を認めている場合には、証拠なしでも慰謝料を支払ってもらえることもありますが、そのようなケースは珍しいといえます。
大半の場合には、慰謝料を請求すると、相手は不貞行為の事実を否定するでしょう。
そのため、相手が不貞行為を否定した場合に備えて、不貞行為の事実を証明するための証拠が必要になります。
たとえば、夫と不倫相手が性交渉を行っているところを撮影した写真や動画などがあれば、不貞行為の事実を示す強力な証拠となるでしょう。
しかし、そのような強力な証拠を集められることは滅多にありません。
そのような証拠がない場合でも、不貞行為の存在をうかがわせる以下のような証拠がそろっていれば、不貞行為を立証できる可能性があります。- ホテルや不倫相手の自宅に出入りする写真や動画
- 親密なやり取りをしているメッセージ
- 夫と不倫相手との会話の録音
- レシートやクレジットカードの明細
- 不貞行為を認める録音データや念書
- 興信所の調査報告書
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(2)不倫相手の氏名・住所を調べる
不倫相手に対して慰謝料を請求するためには、相手の氏名や住所を把握しておく必要があります。
不貞行為の証拠収集の際に相手の氏名や住所がわかればよいですが、氏名や住所がはっきりしないという場合には、興信所に依頼することも検討してください。
また、電話番号や自動車のナンバーなどを把握している場合には、弁護士による調査によって相手の氏名や住所が明らかになる可能性もありますが、弁護士による調査には時間も費用もかかりますので、事前にご自身で把握しておくことが重要です。 -
(3)不倫相手に対して慰謝料請求を行う
不貞行為の証拠収集が終わり、相手の氏名や住所も把握したら、慰謝料の請求を行いましょう。
慰謝料を請求する方法には、法律上の決まりがあるわけではありませんので、口頭での請求でも可能です。しかし、慰謝料請求をしたという証拠を残すという観点から、内容証明郵便を利用した書面によって請求することが一般的です。 -
(4)不倫相手との話し合い
不倫相手が内容証明郵便を受け取った後は、不倫相手との間で、慰謝料の支払いに関する具体的な話し合いを進めていきましょう。
話し合いの結果、慰謝料の金額などについて不倫相手と合意が成立した場合には、口頭での合意で終わらせるのではなく、必ず合意内容を書面に残すようにしてください。
また、書面を作成する場合には、支払いをより確実にするため、公正証書として作成してもよいでしょう。
しかし、公正証書作成は、費用負担が生じる上、両当事者の立ち会いが必要となりますから、不倫相手の協力が不可欠になります。 -
(5)話し合いで解決できない場合には訴訟提起
内容証明郵便を送っても無視されたり、慰謝料の額や支払条件で合意に至らなかったりした場合には、話し合いでの解決は困難といえます。
それでも慰謝料を請求したい場合には、裁判所に訴訟を提起しましょう。
訴訟では、慰謝料を請求する原告の側が、夫と第三者相手が不貞行為をしたという事実を証拠に基づいて主張する必要があります。
訴訟の手続は煩雑であり、不貞行為の事実を立証するためには専門的な知識も必要となるため、提起する際には弁護士に依頼することをおすすめします。
お問い合わせください。
4、慰謝料請求を弁護士に依頼するメリット
夫の不貞行為による慰謝料請求を弁護士に依頼することのメリットを解説します。
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(1)不倫相手との交渉を任せることができる
慰謝料請求を弁護士に依頼すれば、不倫相手との交渉をすべて弁護士に任せることができます。
一般の方では、不慣れな交渉を担当するのは精神的な負担が大きく、どのように手続を進めればよいかわからないことも多いでしょう。
弁護士であれば、代理人として交渉の一切をゆだねることができます。
夫と不貞行為をした相手が不貞行為を否定したとしても、どのような証拠が必要なのか判断し、証拠に基づき交渉することによって、交渉を有利に進めることができます。
また、仮に相手が事実を否定し続ける場合には、訴訟手続きをも任せることができます。 -
(2)夫との離婚問題も解決可能
夫が不貞行為をした場合には、不倫相手に対する慰謝料を請求するだけでなく、夫との離婚も検討することになるでしょう。
また、子どもがいる夫婦が離婚する場合には、親権や養育費や面会交流などについての取り決めが必要になります。
その他にも、財産分与についての交渉や、夫に対する慰謝料の請求など、様々な問題について対処する必要があるのです。
弁護士であれば、不倫相手に対する慰謝料請求だけでなく、離婚に関わるその他の問題についても、法律の専門知識に基づいて適切に対応することができます。
5、まとめ
ホステスやクラブのママが「枕営業」として夫と性交渉した場合、慰謝料を請求できる可能性があります。
夫の不倫でお悩みの方や、慰謝料の請求を検討される方は、まずはベリーベスト法律事務所にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています