労災で休業補償を受けている途中に出勤した場合、給与や給付はどうなる?
- その他
- 労災
- 休業補償
- 途中で
- 出勤
埼玉労働局が公表している労災発生状況に関する統計資料によると、令和4年に埼玉労働局管内で発生した労災件数は、1万5207件でした(新型コロナウイルス感染症を含む)。
労災による傷病によって働けなくなった場合には、労働基準監督署長による労災認定を受けることで、労災保険から休業補償給付を受けることができます。これにより、お金の心配なく休養を続けることが可能になるのです。
休業補償給付は「仕事を休んだこと」に対する補償ですが、休業補償期間の途中で出勤した場合には、休業補償給付はどのようになるのでしょうか? 本コラムでは、労災による休業補償期間の途中で出勤した場合の休業補償給付への影響などについて、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が解説します。
1、休業補償とは
まず、労災保険から支払われる休業補償について、概要を解説します。
-
(1)労災保険の休業補償とは
労災保険の休業補償とは、業務または通勤時の出来事が原因となった傷病により、仕事を休まなければならなくなった場合における労働者の休業中の所得を補償するものです。
労災による傷病などの療養で4日以上の休業が生じた場合に、休業補償および休業特別支給金を受け取ることができます。
これにより、仕事を休んでいる間も一定の補償を受け取ることができるため、安心して治療に専念することが可能になるのです。 -
(2)休業補償給付の支給要件
休業補償給付を受けるためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 労働者が業務上の事由による傷病によって療養していること
- 療養のために労働ができないこと
- 労働ができないために賃金の支払いを受けていないこと
この3つの要件を満たした場合、休業期間の4日目から休業補償および休業特別支給金が支給されます。
休業補償として支払われる金額は給付基礎日額の60%に相当する金額であり、休業特別支給金として支払われる金額は、給付基礎日額の20%に相当する金額です。
そのため、合計で、給付基礎日額の80%の収入が補償されることになります。
2、休業補償の給付中に出勤したらどうなるのか
以下では、休業補償の給付中に会社に出勤した場合に休業補償がどのようになるのかについて解説します。
-
(1)出勤しても休業補償は打ち切りにならない
休業補償期間の途中で会社に出勤しなければならなくなった労働者のなかには、「休業補償が打ち切られるのではないか」という不安を抱いている方もおられるでしょう。
しかし、出勤したからといってただちに休業補償が打ち切られることはありません。
労災保険からの休業補償は、すでに説明した支給要件を満たす限り、支給されます。
そのため、休業補償期間の途中で出勤しても、出勤日以外の療養日については、引き続き休業補償を受けることができるのです。
ただし、休業補償期間中に、労災前と同様の頻度や時間で出勤していた場合には「療養のために労働ができないこと」という要件を満たさず、休業補償が打ち切られる可能性がある点に注意してください。 -
(2)出勤により給料が発生する場合には休業補償の金額が変わる
休業補償期間の途中に出勤し、給料が発生する場合には、労災保険からの休業補償と会社からの給料の二重取りとなってしまいます。
このような二重取りになることは認められず、休業補償の金額が調整されることになります。
たとえば、休業補償期間の途中に出勤し、所定労働時間働いたとすると、休業補償給付として支払われる給付日額の80%を超える給料が支払われます。
したがって、出勤した日に関しては、休業補償の支給を受けることができなくなるのです。
3、休業補償中の賃金や有給、賞与の扱いは?
以下では、休業補償中の賃金や有給、賞与がどのように扱われるかについて解説します。
-
(1)休業補償中の賃金
労災保険からの休業補償給付は、休業期間の4日目から支払われるため、1~3日目までは、労災による傷病で仕事を休んだとしても、労災保険からの休業補償給付を受け取ることができません。
しかし、法律上、会社は、労働者が労災による療養のため出勤することができない場合には、労働者に対して休業補償を支払わなければならないと定められています(労働基準法第76条第1項)。
そのため、休業期間の1~3日目までは、会社から休業補償として賃金の支払いを受けることができるのです。
労働基準法による休業補償の金額は、平均賃金の60%に相当する金額です。
この休業補償は、傷病の療養のために休業している間は継続して支払ってもらうことができますが、労災保険からの休業補償給付のほうが労働者にとっては有利です。
そのため、休業期間4日目からは、労災保険による休業補償給付に切り替えて補償を受け取ることになるのです。 -
(2)休業補償中の有給
雇い入れ日から継続して6か月間勤務して、全労働日の8割以上出勤した労働者に対しては、有給休暇が付与されます(労働基準法第39条第1項)。
労働者は、有給休暇を使うことで、会社を休んだとしても給料の支払いを受けることができます。
労災による傷病で会社を休む際にも、有給休暇を使って仕事を休むことは可能です。
しかし、労災保険からの休業補償給付と有給休暇による賃金の支払いを受けてしまうと二重取りとなってしまうため、有給休暇を使う場合には、その期間は労災保険からの休業補償給付を受けることができなくなります。
有給休暇を使えば休業期間中の給与全額が支給されますので、給付基礎日額の80%までしか補償されない休業補償給付よりも労働者にとっては有利だといえます。
しかし、有給休暇の上限は法律上40日までとされているため、療養期間が長くなれば有給休暇だけでは足りなくなることもあります。
また、傷病が完治して職場に復帰したとしてもさまざまな事情で仕事を休まなければならなくなったときに、有給休暇がない場合には、無給で休まなければなりません。
したがって、万が一のときに備えて、有給は残しておいたほうがよいでしょう。 -
(3)休業補償中の賞与
賞与は、労働基準法によって労働者への支払いが義務付けられているお金ではありません。また、賞与を支給する場合であっても、どのような支給条件にするかは会社が自由に決めることができます。そのため、労災による休業期間を「欠勤」として扱い、賞与の支給にあたって一定額を控除することも違法ではありません。
休業補償中の賞与がどのように扱われるのかについては、会社によって処理方法が異なってきます。まずは、会社の就業規則などを確認し、労災による休業期間が賞与の算定にあたってどのように考慮されるのかを確認してみるとよいでしょう。
4、労災事故が会社の責任だった場合
以下では、労災事故が会社の責任であった場合に、被災した労働者がとるべき対応を解説します。
-
(1)会社に対して損害賠償請求が可能
労災による傷病は、労災認定を受けることで労災保険から各種補償を受けることができます。
しかし、労災保険からの補償は、被災労働者保護の観点から支給される最低限の補償に過ぎません。
そのため、労災からの給付だけでは、被災労働者が被ったすべての損害を回復することはできないのです。
労災保険から不足する部分については、労災事故の責任がある会社に対して損害賠償を請求することを検討しましょう。 -
(2)会社への損害賠償を請求するなら弁護士に相談
会社への損害賠償請求を検討される場合には、以下のような理由から、弁護士に相談することをおすすめします。
① 会社の法的責任の有無を判断してもらえる
労働基準監督署から労災認定を受けたとしても、それだけでは会社に対して損害賠償を請求することができません。
会社に対して損害賠償請求するためには、会社に安全配慮義務違反があること、または使用者責任があることを主張、立証する必要があります。
このような主張、立証をするためには、労災事案に関する法的知識と経験が不可欠です。
労働者個人で正確に判断することは、困難だといえます。
会社に対して損害賠償請求が可能であるかを判断するためにも、まずは専門家である弁護士に相談してみましょう。
② 会社との対応を任せることができる
事故の責任が会社にある場合には、まずは、会社との交渉で損害の支払いを求めていくことになります。
しかし、労働者個人では、会社と対等に交渉することが難しく、賠償金の支払いを断られてしまったり、不利な条件で示談に応じさせられたりするリスクがあるのです。
労働者個人で適切に会社との対応を進めていくのは困難であるため、対応は弁護士に任せましょう。
弁護士であれば、法的観点から会社側の責任を追及していき、交渉によって適切な賠償額を請求できる可能性が高くなります。
また、交渉で解決できなかった場合にも、訴訟などの法的手段を弁護士に任せることができるのです。
5、まとめ
労災による休業補償期間の途中で会社に出勤したとしても、それだけで労災保険からの休業補償が打ち切られることはありません。
ただし、休業補償と賃金の二重取りは認められていないため、出勤日に給料を受け取っていた場合には、休業補償の金額から調整されることになります。
休業補償を受けることで仕事を休んでいる間も安心して療養に専念することができますが、労災保険からの給付だけでは、被災労働者が負った損害を十分に補償されません。
事故の責任が会社にある場合には損害賠償を請求できるため、まずは弁護士に相談してください。
ベリーベスト法律事務所では、労災に遭われた労働者からの相談を、いつでも受け付けております。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています