労災における「様式16号の4」とは? 提出が必要になるケースと記入方法

2023年06月19日
  • その他
  • 労災
  • 16号の4
労災における「様式16号の4」とは? 提出が必要になるケースと記入方法

勤務中や通勤中に発生した事故などについて労災保険給付を請求する際には、請求内容に応じた書類(請求書・診断書など)を提出する必要があります。

「様式第16号の4」は、通勤災害によるケガなどの治療において、入院・通院している医療機関を変更する際に用いる様式です。

本コラムでは、労災保険給付に関して様式第16号の4の提出が必要となるケースや、様式第16号の4の書き方や提出先などについて、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が解説します。

1、日本の労災保険制度

日本には、労働者が病気やけがをした際の救済制度として、2つの制度が設けられています。

1つは、労働基準法上の補償制度です。これは、労働者の業務上の病気やけがに対する補償について定めています。その中で、業務上の病気やけがに対する補償は、会社の義務として定められています(労働基準法第75条第1項)。

もう1つは、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」といいます)上の補償制度です。この制度では、業務上の病気やけがだけでなく、業務外、すなわち、通勤途中のけがについてもカバーされています。補償内容も、労働基準法上の補償よりも手厚くなっています。
また、この制度は、事業主から保険証を徴収して成り立っており、これを利用すると、労働者には、政府から直接保険給付が行われます。これによって、労働基準法上の会社の義務は免れるのです(労働基準法第84条第1項)。

このように、事業主たる会社側に負担が少なく、労働者側には手厚い補償が用意されているので、2つの救済制度のうち、労災保険法上の補償制度がその中心を担っています

2、様式第16号の4の提出が必要となるケース

では、様式第16号の4という書類は、労災保険法の制度上どのように定められているのでしょうか。

まず、業務上の病気などを理由に療養「補償」給付を受けている労働者は、給付を受ける指定病院を変更しようとするときは、所定の事項を記載した届書を、新たに給付を受けようとする指定病院等を経由して、所轄の労基署長に提出する必要がある(労災保険法施行規則第12条第3項)、という規定があります。
そして、この規定は、通勤災害の場合の「療養給付」たる療養の給付の請求について準用されています(同規則第18条の5第3項)。

これらの規則に基づいて作成された書式が、「様式第16号の4」と呼ばれている書面です。

つまり、
① 通勤災害を理由とした給付を受けている場合
であって、
② 入院、通院先を変えたいという場合
に提出する書類だということになります。

  1. (1)通勤災害について

    様式第16号の4という書類は、通勤災害のケースにおいて提出するものです。

    先ほどの法律の規定を見ると、業務上の病気などを理由とする給付と、通勤災害の場合の給付とでは、その名称に「補償」という言葉がつくかどうかという点で違いがあります。労働基準法の制度上、通勤災害は業務外のけがであって、本来会社に補償の義務はありません。そのような区別から、通勤災害の場合の給付には、「補償」という言葉はついていません。もっとも、給付の内容に違いはありません。
    なお、業務災害の場合には、後記するように、別の様式による書類の提出が必要となります

  2. (2)入院、通院先を変更することについて

    様式第16号の4の提出が必要となるのは、入院、通院先の医療機関を変更し、かつ、変更前後の医療機関がいずれも労災病院か、または労災保険指定医療機関である場合です

    そもそも、通勤災害について、労災を使って治療を受ける場合は、治療を受ける指定病院等を経由して申請書を提出する必要があります(労災保険法規則第18条の5第1項)。
    そして、治療費は、労災保険から直接病院に支払われるのです。

    このように、労働者側で一部を負担したり、立て替えたりする必要がない代わりに、病院側で手続きを進める仕組みがとられています。
    そのため、入院、通院先を変更する場合も、別途書類の提出が必要となります。

    労災病院・労災保険指定医療機関は、厚生労働省のウェブサイトから検索できます。

    他方で、労災病院・労災保険指定医療機関以外の医療機関では、被害者(患者)が治療費全額を自己負担した後に、労災保険給付として治療費の償還を受けることができます。
    これは「療養の費用の支給」と呼ばれており、無償で治療を受けられる療養の給付とは呼称が異なります。

    なお、後記するように、転院前後の医療機関のいずれか(または両方)が労災病院・労災保険指定医療機関でない場合には、別の様式による書類の提出が必要です。

3、様式第16号の4以外の様式が必要となる転院手続き

上記のとおり、様式第16号の4の提出が必要となるのは、入院・通院先を変更するケースのうち、通勤災害に該当し、かつ、転院前後の医療機関がいずれも労災病院または労災保険指定医療機関(以下「労災病院等」といいます。)である場合です。

上記に該当しない転院については、以下の様式による書類の提出が必要となります。

① 業務災害の場合
  • (a)労災病院等から労災病院等への転院:様式第6号
  • (b)労災病院等以外の医療機関から労災病院等への転院:様式第5号
  • (c)労災病院等以外の医療機関への転院:(治療費を立て替えた後に)様式第7号

② 通勤災害の場合
  • (a)労災病院等以外の医療機関から労災病院等への転院:様式第16号の3
  • (b)労災病院等以外の医療機関から労災病院等以外の医療機関への転院:(治療費を立て替えた後に)様式第16号の5

4、様式第16号の4の書き方・提出先

様式第16号の4には、以下の事項を記載します。

① 宛先
事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長を記載します。

② 経由医療機関
実際に様式第16号の4を提出する労災病院等の名称を記載します。

③ 届出日・届出人の住所、氏名
住所・氏名については、届出を行う人(代理届出の場合は代理人)の情報を記載します。氏名を自書する場合は、押印不要です。

④ 労働保険番号
労災保険に加入している事業所ごとに付された番号です。わからない場合は、会社または労働保険事務組合に問い合わせましょう。

⑤ 年金証書の番号
傷病年金を受給している方のみ記載します。受給していない場合は空欄とします。

⑥ 労働者の氏名、生年月日、住所、職種
被災労働者(被災者)に関する情報を記載します。

⑦ 負傷又は発病年月日
労災が発生した日時または発病の日を正確に記載します。

⑧ 災害の原因及び発生状況
以下の情報を簡明に記載します。
  • 通勤災害の発生場所
  • 通勤災害発生時の移動方法
  • 通勤災害の原因となった物や状況
  • 通勤災害が発生した経緯

⑨ 事業主の証明
「負傷又は発病年月日」が記載のとおりであることにつき、事業主の証明を記載します。
なお、事業主が知り得なかった場合には証明不要です。また、被災労働者がすでに離職している場合も不要となります。

⑩ 指定病院等の変更
変更前後の労災病院等の名称・所在地(変更前の労災病院等については労災指定医番号も)を記載します。また、変更の理由についても記載が必要です。

⑪ 傷病補償年金の支給を受けることとなった後に療養の給付を受けようとする指定病院等の名称、所在地
基本的には空欄で構いません。

⑫ 傷病名
通勤災害によって発生して治療中の傷病の名称を、医師に確認した上で具体的に記載します。


様式第16号の4の提出先は、転院後の労災病院などです。
様式第16号の4を受け取った労災病院等は、所轄の労働基準監督署長へ回付します。

5、労災被害について弁護士に相談した方がよいケース

労災の被害に遭った労働者やそのご遺族は、労災保険給付を請求するだけでなく、並行して弁護士にも相談することをおすすめします。
特に、以下のようなケースでは、お早めに弁護士までご相談ください

  • ① 労災保険給付が不十分な場合
  • ② 会社から退職を求められた場合


  1. (1)労災保険給付が不十分な場合

    労災保険給付は、被災労働者に生じた損害の全額を補塡(ほてん)するものではありません。
    たとえば、慰謝料は補償対象外であるほか、その他の損害についても、労災保険給付が実損害額に不足するケースは多々あります。

    労災保険給付と実損害の差額については、会社の安全配慮義務違反(労働契約法第5条、民法第415条第1項)や使用者責任(民法第715条第1項)を根拠に、損害賠償請求によって回収できる可能性があります。

    労災保険給付の不足額をカバーするため、会社に損害賠償を請求したい場合には、弁護士にご相談ください

  2. (2)会社から退職を求められた場合

    病気やけがによって出勤できなくなると、「休職」といって、会社から、雇用契約は残しつつ労働の義務を一時的に消滅させる扱いを取られることがあります。
    休職制度は、就業規則等で定められていることが多いです。
    そして、その期間がどのくらいになるか、休職期間中に賃金が支払われるかといったことは、会社や休職事由によって異なります。

    問題なのは、一定の休職期間が経過した後に、様々な理由をつけて退職を求められた場合です。
    過去の裁判例には、労働者の病気が治癒するまでの間他の業務に配置すべき信義則上の義務を会社が負うと判断された事例もあります。

    会社から説明を受けて、少しでも納得のいかない部分があれば、弁護士に相談しましょう

6、まとめ

労災保険給付の様式第16号の4は、通勤災害によるケガなどについて、入院・通院先の労災病院等を変更する際に提出する書類の様式です。
請求・手続きの内容によって用いる様式が異なるため、労災病院等や労働基準監督署の担当者にご確認ください。

労災保険給付が不十分な場合や、会社から退職を求められた場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所には、労使紛争に関する経験豊富な弁護士が多数在籍しておりますので、お気軽にご相談ください

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています