労災の見舞金はいくら? 慰謝料との違いと給付金額への影響を解説

2022年11月28日
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労災の見舞金はいくら? 慰謝料との違いと給付金額への影響を解説

越谷市を管轄する春日部労働基準監督署の管轄内において、令和3年中に発生した休業4日以上の労働災害は、1872件でした。

労働者が仕事中に事故にあってケガをした場合や死亡した場合には、会社から本人や遺族に対して「見舞金」が支払われることがあります。見舞金を受け取った場合には、労災保険給付や損害賠償との関係性に注意しなければなりません。

会社から受け取った見舞金がどのような性質のものであるか、しっかりと理解したうえで労災保険給付や損害賠償を請求することで、最大限の補償を受け取ることができます。

本コラムでは労働災害にあわれた方に会社から支払われる見舞金の法的性質や、労災保険給付や損害賠償と見舞金との関係性について、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が解説します。

1、労災にあった際に、会社が支払う「見舞金」とは?

被災労働者やその遺族に会社が支払う「見舞金」とは、労災にあったことについての「おわび」「お見舞い」などの意味合いを持つ金銭です。

就業規則や慶弔金規程などに基づいて支給される場合のほか、経営陣の個別判断により支給される場合もあります。
また、見舞金の法的な位置づけは一概に言えず、支給目的や金額に応じて判断されます。

  1. (1)労災の見舞金はいくらぐらいが妥当?

    被災労働者やその遺族に支給される「見舞金」は、法律によって会社に支給が義務付けられるものではありません。
    そのため、その金額は会社によって異なります。

    一般論としては、死亡弔慰金として支給される場合は300万円~500万円程度、ケガや病気について支給される場合は数万円~数十万円程度が標準的と考えられます

  2. (2)見舞金と慰謝料の違い

    労災の見舞金は、原則として、慰謝料やその他の損害賠償金とは別物です
    したがって、会社に安全配慮義務違反(労働契約法第5条)や不法行為責任(民法第709条等)がある場合には、仮に見舞金を支払ったとしても、それとは別に被災労働者に対して慰謝料やその他の損害賠償を支払わなければなりません。

    ただし、支給目的や金額によっては、見舞金が実質的に損害賠償の一部であると判断される可能性がある点に注意してください

2、労災保険給付の種類

業務中や通勤中の事故により、ケガや病気、障害や死亡などの被害を受けた被災労働者やその遺族は、労災保険から以下の給付を受けることができます。

労災保険給付の種類は多岐にわたるため、自分の被害に該当する給付を漏れなく確認して、請求しましょう。

  1. (1)療養(補償)給付

    療養(補償)給付は、労災によるケガや病気の治療を提供したり、すでに発生した治療費を補塡(ほてん)したりするための給付です。

    労災保険指定医療機関を受診した場合、窓口で申請を行えば治療費などが無料になります。
    これに対して、労災保険指定医療機関以外の医療機関を受診した場合には、いったん治療費等を立て替えたうえで、後日労働基準監督署に療養給付を請求しなければなりません

  2. (2)休業(補償)給付

    休業(補償)給付は、労災によるケガや病気を治療するために仕事を休んだ期間の収入を補塡するための給付です。

    休業4日目以降から、給付基礎日額(=平均賃金)の80%が支給されます。その内訳は、休業(補償)給付が平均賃金の60%、休業特別支給金が20%となります。

  3. (3)遺族(補償)給付

    遺族(補償)給付は、被災労働者が死亡した場合に、遺族に対する生活を保障するための給付です。

    遺族給付には、遺族の人数に応じて毎年支給される「遺族(補償)年金」と「遺族特別年金」、さらに一律300万円支給される一時金の「遺族特別支給金」の3種類があります。
    被災労働者の遺族は、これらすべてを受け取ることができます。

  4. (4)葬祭料(葬祭給付)

    葬祭料(葬祭給付)は、被災労働者が死亡した場合に、葬祭を行う立場の遺族に対して支給されます。

    支給される葬祭料の金額は、以下のいずれかのうち高いほうとなります。

    1. ① 31万5000円+給付基礎日額の30日分
    2. ② 給付基礎日額の60日分
  5. (5)傷病(補償)給付

    傷病(補償)給付は、傷病等級第3級以上に該当するケガや病気が1年6カ月以上治らない場合に、被災労働者に支給されます。

    傷病給付には、毎年支給される「傷病(補償)年金」と「傷病特別年金」、さらに一時金の「傷病特別支給金」の3種類があります。
    被災労働者は、これらすべてを受け取ることができます。

    なお、他の労災保険給付とは異なり、傷病給付が支給されるか否かの決定は、所轄の労働基準監督署長の職権により行われます。
    そのため、療養開始から1年6カ月が経過した後1カ月以内に、「傷病の状態等に関する届」を所轄の労働基準監督署長に提出する必要があります

  6. (6)障害(補償)給付

    障害(補償)給付は、労災によるケガや病気が完治せず、後遺症(後遺障害)が残った被災労働者に支給されます。

    後遺症の部位・内容・程度に応じて認定される「障害等級」に応じて、以下の年金や一時金が支給されることになるのです。

    1. ① 第1級~第7級の場合
      障害(補償)等給付、障害特別支給金、障害特別年金
      ※障害(補償)等給付と障害特別年金は年金、障害特別支給金は一時金
    2. ② 第8級~第14級の場合
      障害(補償)等給付、障害特別支給金、障害特別一時金
      ※いずれも一時金
  7. (7)介護(補償)給付

    介護(補償)給付は、以下の要件を満たす被災労働者に支給されます。

    1. ① 障害(補償)年金または傷病(補償)年金の受給者であること
    2. ② 以下のいずれかの障害を有すること
      (a)傷病等級第1級の障害(すべて)
      (b)傷病等級第2級の精神神経・胸腹部臓器の障害
    3. ③ 現に介護を受けていること

3、会社から見舞金を受け取った場合、労災保険給付はどうなる?

会社から労災の見舞金を受け取った場合でも、原則として、労災保険給付は全額を受け取ることができます。

ただし、見舞金が損害賠償としての実質を有すると判断される場合には、支給調整により労災保険給付が減額される可能性がある点に注意してください

  1. (1)見舞金が損害賠償の性質を持たない場合|通常どおり支給される

    被災労働者が会社から損害賠償を支払われた場合には、厚生労働大臣が定める基準にしたがって、支給調整により労災保険給付が減額されることがあります(労働者災害補償保険法第64条第2項)。
    しかし、前述のとおり、原則として見舞金は会社の被災労働者に対する損害賠償とは別物と解されています。
    また、厚生労働大臣が定める基準でも、「単なる見舞金等民事損害賠償の性質をもたないものについては、労災保険給付の支給調整を行わない」と明記されています。

    したがって、会社から見舞金を受け取った場合でも、その見舞金が損害賠償の性質をもたなければ、原則として、労災保険給付は全額が支給されることになるのです

  2. (2)見舞金が実質的に損害賠償である場合|支給調整が行われる

    以下のような場合には、見舞金は実質的に損害賠償であると解釈されるため、労災保険給付が支給調整により減額される可能性があります。

    • 見舞金が損害賠償の一部であることを明示して支払われた場合
    • 見舞金が非常に高額であり、損害賠償の一部と評価するのが妥当である場合


    支給調整による減額幅は、実際に会社から受けた損害賠償額の範囲内で、前掲の厚生労働大臣が定める基準によって算定されます。

4、会社に「見舞金を渡したから損害賠償は支払わない」と言われたら?

被災労働者やその遺族は見舞金のほかにも労災保険給付を受けることができますが、これらを合わせても、すべての損害額が補塡されるとは限りません
不足する金額を補塡するためには、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)や不法行為責任(民法第709条等)を根拠にしながら、会社に対して損害賠償を請求する必要があるのです。

前述のとおり、会社の就業規則や慶弔金規程、または経営陣の個別判断などによって支給される見舞金は、損害賠償とは別物です。
したがって、会社が被災労働者やその遺族に見舞金を支払ったとしても、原則として、別途支払うべき損害賠償が減額されることはありません。
しかし、場合によっては、「見舞金を渡したから損害賠償は支払わない」と会社側が被災労働者に対して主張することがあります。
このような主張は、法律の定めるルールに従っていない不当なものです。

もし会社から不合理に損害賠償を拒否されたら、お早めに、弁護士までご相談ください
弁護士を代理人とすることで、会社の不当な主張にも対抗して、適正な金額の損害賠償を請求することができます。

5、まとめ

労災の見舞金には明確な金額相場がありませんが、死亡の場合は300万円~500万円程度、ケガや病気の場合は数万円~数十万円程度が標準的と考えられます。
また、会社から見舞金を受け取った場合でも、被災労働者や遺族は労災保険給付を請求できます。
労災保険給付の金額では損害の全額が補塡されない場合には、会社に対して損害賠償を請求しましょう。
弁護士を代理人とすれば、会社に損害賠償の支払いを拒否されても、不当な対応に屈せずに請求することができます

会社に対する損害賠償を検討されている方や、見舞金と損害賠償の違いが判別できずにお困りの方は、お気軽に、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。

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