自己破産における預金の取り扱い|手続き後も預金を残すことは可能?
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自己破産をすると、銀行預金は原則として債権者への配当にあてられてしまいます。
預金の存在を裁判所に対して隠していると、破産免責が認められなくなったり、刑事罰を受けたりするリスクがある点に注意が必要となります。
本コラムでは、自己破産手続きにおける銀行預金の取り扱いなどについて、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が解説します。
1、預金とは?
預金とは、銀行に預けているお金のことです。
なお、ゆうちょ銀行に預けているお金は、「貯金」と呼ばれます。
また、銀行とゆうちょ銀行に預けたお金を合わせて「預貯金」と呼ぶこともあります。
預金者は、銀行に対して「預金債権」を持っています。
預金債権とは、「預金の引き出しを銀行に請求できる権利」です。
預金債権はあくまでも「債権」であり、金銭そのものである「現金」とは異なる点に注意してください。
なお、いわゆる「タンス貯金」は、タンスなどの中にしまってある「現金」であり、法的には「預金」や「貯金」とは見なされません。
2、破産手続きにおける預金の取り扱い
破産手続きでは、破産者の財産は換価・処分されたうえで、債権者に対する配当にあてられます。
しかし、すべての財産が債権者への配当にあてられるわけではありません。
預金についても、処分の対象になるものとならないものがあるのです。
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(1)破産手続開始決定時の預金残高|原則として処分の対象
自己破産の申し立てを受けた裁判所は、申し立て要件を満たしていることを確認した後、破産手続開始の決定を行います(破産法第30条)。
破産者が破産手続開始の決定時において有する一切の財産は、原則として「破産財団」となります(破産法第34条第1項)。
この破産財団が、換価・処分および債権者に対する配当の対象となるのです。
したがって、破産手続開始決定時の預金残高については、原則として債権者への配当に回されてしまいます。
破産財団に属する預金債権は、破産管財人に管理処分権が専属するため(破産法第78条第1項)、破産手続開始の決定後に引き出すことはできません。 -
(2)破産手続開始決定後に生じた預金|処分の対象外
破産財団に対して、破産者が破産手続開始決定の後に得た財産は「自由財産」と呼ばれ、破産手続きによる換価・処分および配当の対象外になります。
したがって、破産手続開始の決定後に生じた預金については、債権者に対して配当されず、破産者の元へ残せます。 -
(3)自由財産の拡張について
裁判所は、破産手続開始の決定時から当該決定が確定した日の1カ月後までの間に、自由財産の範囲を拡張することが認められています(破産法第34条第4項)。
つまり、破産財団に属する財産であっても、特別に自由財産へ移してもらえる場合があるのです。
自由財産の拡張を認めるかどうかは、財産の種類や額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、裁判所が個別に判断します。
預金についても、破産者の置かれた経済的状況に鑑み、生活を維持するために必要と判断されれば、一定額まで自由財産の拡張が認められる可能性があります。
例を挙げると、東京地裁では、預金については20万円を上限に、自由財産の拡張を認める運用が定着しています。
ただし、あくまでも東京地裁における運用であって、詳細は裁判所によって異なる点に注意してください。
3、破産手続きにおける預金以外の財産の取り扱い
預金以外の財産についても、基本的には預金と同じルールによって、換価・処分および配当の対象となるかどうかが決まります。
つまり、破産手続開始の決定時に有したものは換価・処分および配当の対象となり、決定後に取得したものは対象外となる、というのが基本的な考え方になります。
ただし、一部の財産については差押禁止であるために自由財産とされている点や、自由財産の拡張基準はそれぞれ異なるといった点があるため、それらの点に注意する必要があります。
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(1)現金
現金については、99万円を上限に破産財団から除外され、自由財産となります(破産法第34条第3項第1号、民事執行法第131条第3号)。
したがって、破産手続きによる債権者配当の対象となるのは、99万円を超える現金のみです。 -
(2)不動産
不動産については、換価・処分の見込みが立つかどうか(買い手が見つかるかどうか)がポイントとなります。
破産者が破産手続開始の決定時に有した不動産のうち、買い手が見つかるものについては、換価・処分のうえで債権者への配当にあてられます。
これに対して、買い手が見つからない不動産については、破産管財人に判断で破産財団から放棄されて、破産者に返却される可能性が高いでしょう(破産法第78条第2項第12号)。 -
(3)自動車
自動車についても、不動産と同様に、買い手が見つかるものは債権者への配当にあてられて、買い手が見つからなければ破産者に返却されることになります。
ただし、特に郊外や山間部などでは、自動車がなければ生活が成り立たないという方もおられます。
そのような場合には、裁判所の判断によって自由財産の範囲が拡張されて、自動車を手元に残せる可能性があるのです。
また、自動車の売却見込み額が低額である場合には、売却にかかるコストを考慮して、自由財産の拡張が認められることがあります。
たとえば東京地裁では、売却見込み額が20万円以下の自動車について、自由財産の拡張を認める運用が定着しています。 -
(4)貴金属・美術品などの動産
貴金属や美術品などの動産も、売却できるものは換価・処分したうえで債権者への配当にあてられ、売却困難なものは破産者に返却されます。
ただし、家財道具については、高価なぜいたく品とみなされるものを除き、生活に必要な財産として自由財産の拡張が認められる可能性が高くなっております。 -
(5)株式などの有価証券
株式などの有価証券は、破産者が破産手続開始の決定時に有したものであれば、ほとんどの場合、換価・処分および債権者配当の対象となります。
ただし、非公開会社の株式については、当該会社が債務超過であれば無価値とみなされるため、破産管財人の判断で破産者へ返却される可能性が高くなっています。 -
(6)給与債権
給与債権のうち、以下のものは差押禁止債権とされており、破産手続きによる換価・処分の対象外です(破産法第34条第2項第2号、民事執行法第152条第1項第1号)。
① 以下のいずれか低い金額までの給与債権
(a)未払い額の4分の3
(b)33万円
② 退職手当およびその性質を有する給与債権のうち、未払い額の4分の3
未確定の退職金請求権についても、破産手続開始の決定時における金額を評価したうえで、破産財団に含められます。
ただし、給付が確定していないことを考慮して、債権額の大部分につき自由財産の拡張が認められることも多いです。
たとえば東京地裁では、退職金請求権の8分の7相当額(債権額が160万円以下の場合は全額)につき、自由財産の拡張を認める運用が定着しています。
なお、すでに支払われた給与については、現金または預貯金と同様に取り扱われます。 -
(7)年金
公的年金(国民年金・厚生年金)の請求権は差押禁止とされているため、破産手続きによる債権者配当の対象外です(破産法第34条第2項第2号)。
これに対して、民間の保険会社と契約している年金については、破産者が破産手続開始の決定時に有する解約返戻金請求権が債権者配当の対象となります。
ただし、一定額以下の解約返戻金請求権については、自由財産の拡張が認められるケースが多いです。 -
(8)生活保護費
生活保護の受給権は差押禁止とされているため、破産手続きによる債権者配当の対象外となります(破産法第34条第2項第2号、生活保護法第58条)。
また、生活保護費として既に給付された現金または預金についても、受給権と同様に差押禁止であるため、破産手続きによる債権者配当の対象外となるのです。
4、自己破産時に預金を隠すのはNG
自己破産を申し立てると、預金の大部分は債権者配当の対象になってしまいます。
しかし、「預金を失うのが嫌だ」といった理由から裁判所に対して預金の存在を隠してしまうと、刑罰が科されるなど、預金を失う以上の不利益を被る可能性があるのです。
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(1)免責不許可事由に該当する
「預金通帳を改ざんする」「口座を開示しない」などの方法によって、裁判所に対して預金の存在を隠した場合、免責不許可事由に該当します(破産法第252条第1項第6号、第8号)。
免責不許可事由が存在すると、原則として破産免責が認められません。
裁判所の裁量によって免責が認められるケースはありますが(同条第2項)、財産を隠匿したような悪質なケースでは、裁量免責は期待できないでしょう。 -
(2)詐欺破産罪によって処罰される
債権者を害する目的で預金の存在を隠した場合には、詐欺破産罪によって処罰される可能性があります(破産法第265条第1項第1号)。
詐欺破産罪の法定刑は「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金」であり、併科される場合もあります。
隠した預金額が多ければ多いほど、重い刑事罰を科されやすくなる点に注意してください。
5、まとめ
自己破産をすると、預金の大部分は処分されてしまいます。
ただし、裁判所の判断によって、一定額までの預金については自由財産の拡張が認められて、手元に残しておける可能性があります。
借金問題を効果的に解決するためには、適切な債務整理手続きを選択したうえで、各手続きに特有の注意点に気を付けながら、適切に対応することが重要です。
ベリーベスト法律事務所では、自己破産を含めた、債務整理に関するご相談を随時受け付けております。
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