ホテルの客が宿泊者以外を部屋に出入りさせたとき、問われる可能性のある犯罪とは?
- その他
- ホテル
- 宿泊者以外
- 出入り
越谷市は、観光振興による地域の魅力・活力の向上を目標に、平成28年度から「越谷市観光振興計画」に取り組んできました。平成29~30年にかけては、越谷駅の周辺に相次いでビジネスホテルがオープンし、大手旅行会社との連携も功を奏して、観光入込客数は目標をクリアしています。
近年ではホテルの利用方法に関するトラブルも増えており、ホテル側も対策を強めています。特に、ホテルに泊まっている客が宿泊者以外の人を客室に出入りさせることは、ホテル側が設けたルールに反するだけでなく、状況次第では犯罪に問われてしまう可能性もあるのです。
本コラムでは、宿泊者以外の人を客室に出入りさせてはいけない法的な理由や、発覚した場合に生じる可能性のある事態について、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が解説します。
目次
1、ホテルの部屋は宿泊者以外の出入りNG! なぜダメなのか?
これまでにホテルを利用した経験がある方なら、「宿泊者以外の出入りはご遠慮ください」といった注意書きを目にしたことがあるでしょう。
ホテルの客のなかには、「自分は宿泊料金を支払ってスペースを借りているのだから、物を壊したり他の宿泊客に迷惑をかけたりするのでなければ、誰を部屋に入れようが自由だ」と考える人もいるかもしれません。
以下では、ホテルの客が宿泊者以外の人を部屋に出入りさせてはいけない理由について解説します。
-
(1)利用規約に違反するから
ホテルに申し込んで宿泊すると、ホテル側の「利用規約」を理解して、その内容に従うと了承したことになります。
したがって、「料金さえ支払えばなにをしてもいい」というわけではなく、利用規約を守らなければ正当な宿泊者とはいえません。
「宿泊者でない人を部屋に出入りさせてはいけない」と利用規約に明記されているにも関わらず出入りさせてしまった場合にも、利用規約に反することになるのです。 -
(2)宿泊人数に対する料金を支払っているから
一般的に、ホテルでは宿泊者の人数に応じて料金を支払うシステムが取られています。
つまり、「部屋というスペースを借りること」と「その部屋に指定の人数が宿泊すること」の両方を合わせたサービスに対して、料金を支払っていることになるのです。
そのため、宿泊者として料金を支払っている人以外を出入りさせると、「料金未払いのままでサービスを利用している」ということになります。 -
(3)消防法に違反するから
ホテルには、1部屋ごとの収容人数について消防法による規制が設けられています。
消防法施行規則第1条の3では、宿泊室ごとの制限は以下のようになっています。- 洋室……ベッド数に対応する数
- 和室……部屋の床面積を6平方メートルで割った数
消防法の規制は、人命を守るための大切なルールです。
このような規制があるため、たとえばグループ同士での宿泊でも、お互いの部屋を訪問して収容人数を超える行為は違法になってしまいます。
それぞれの宿泊者が料金を支払ったうえで個別の部屋に宿泊する前提で部屋の移動を黙認するホテルも少なくありませんが、本来は違法であると認識しておきましょう。 -
(4)万が一の災害・火事などで補償が難しくなるから
ホテルでは、万が一の火事や災害などのトラブルに備えて保険に加入しているのが通例です。
ただし、補償の対象となるのは正規の宿泊者だけです。
不正に部屋を利用した方が火事や災害などのトラブルの被害にあっても、保険による補償を受け取ることはできません。
ホテル側との話し合いや裁判で解決を目指すことになりますが、そもそも不正利用であるために、十分な保証は得られない可能性が高いでしょう。
2、ホテルで親戚や友人など宿泊者以外の人と会いたい時はどうすればいいのか?
旅行先では、遠方に住む親戚や友人などと会う機会もあるでしょう。
しかし、利用規約で宿泊者以外の出入りが禁止されているなら、泊まっているホテルの部屋に招くことはできません。
また、多くのホテルではフロントのほかエレベーターホールなどでも従業員が監視しているので、宿泊者以外を招こうとすると注意・制止される可能性もあります。
以下では、利用規約を守りつつ、親戚や友人などの来訪者と面会する方法について解説します。
-
(1)ロビーや併設されたレストランなどを利用する
多くのホテルでは、ロビーに応接用のソファやテーブルを設置したスペースが用意されています。
また、ホテル内に併設されたレストランのほとんどは、宿泊者以外でも利用が可能です。
これらのスペースを活用すれば、ホテル外の場所を利用しなくても、来訪者と面会することができます。 -
(2)追加料金を支払う
面会が長時間にわたることが想定できる場合や、来訪者も宿泊する意図があるなら、来訪者分も正規の宿泊者としてホテル側に追加料金を支払えば問題はありません。
ただし、消防法の関係で一部屋の収容人数は制限されているので、状況次第では人数に応じた部屋への変更を交渉する必要があるでしょう。 -
(3)ホテル側に事情を説明する
身体が不自由で介助や荷物の移動といったサポートが必要な場合は、ホテル側に事情を説明することで、短時間に限り宿泊者以外の出入りを認めてもらえる可能性があります。
ただし、内容次第ではホテル従業員によるサポートで解決してもらえたり、事情があっても宿泊者以外の出入りは禁止という姿勢が変わらなかったりする場合もあります。
特別な事情がある場合は、宿泊予約の時点でホテル側にその旨を伝えておきましょう。
3、宿泊者以外を部屋に入れてしまうとどうなるのか?
フロント従業員の不在や通用口からの出入りで、従業員に引き止められることなく宿泊者以外を部屋に招き入れることができても、ホテル内には防犯カメラが設置していたり従業員が常駐していたりするため、後から事実が発覚する可能性は高いでしょう。
以下では、宿泊者以外の人を出入りさせたことが発覚してしまった場合に起こり得る事態について解説します。
-
(1)宿泊を断られてしまう
宿泊者以外の人を部屋に招き入れてしまうと、利用規約に違反するだけでなく、ホテルが守るべき消防法の定めにも触れてしまうことになります。
そのため、多くのホテルが「発覚次第、以降の宿泊をお断りする」という姿勢をとっています。
連泊の予定であっても追い出されて、旅行先や出張中なのに新しい宿を見つけることもできない、という事態に陥るおそれもあるのです。 -
(2)今後の利用も断られてしまう
利用規約に違反してしまうと、当日の宿泊を断られてしまうだけでなく、今後の利用も断られてしまうかもしれません。
いわゆる「出入り禁止」です。
個人的な旅行なら今後は別のホテルを利用すれば済みますが、ビジネス利用だと出張先での利便性が悪くなってしまったり、会社の提携ホテルを利用できなくなったりする可能性があります。 -
(3)被害届を提出されてしまう
正規の宿泊者以外を出入りさせる行為は、単なるルール違反・マナー違反では済まされない大問題です。
法律の定めに照らすと、刑法の「詐欺罪」や「建造物侵入罪」に問われるおそれがあります。
詐欺罪といえば「お金などをだまし取る犯罪」というイメージが強いかもしれません。
これは、刑法第246条1項の規定が適用された場合ですが、詐欺罪には同条2項が適用されるケースも存在します。
他人をだまして、「財産上不法の利益を得た」場合も詐欺罪です。
ここでいう財産上不法の利益とは、料金の支払いを免れる行為が典型例です。
ホテルの宿泊料金を支払わない、いわゆる「無銭宿泊」は詐欺罪によって罰せられることになるのです。
また、刑法第130条の建造物侵入罪は、いわゆる不法侵入を罰する犯罪ですが、たとえ出入りが自由でも管理者の意思に反する立ち入りは「侵入」にあたります。
そのため、出入り自由であるホテルという建物であっても、「建造物侵入罪」に問われる可能性があるのです。
4、ホテルの不正利用で逮捕された実例
以下では、実際にホテルの不正利用で宿泊者が逮捕された事例を紹介します。
令和4年8月、都内の繁華街近くにあるビジネスホテルにおいて、宿泊者の人数をごまかして料金支払いを免れた容疑で、未成年者を含む男女3人が逮捕されました。
この事件では、ビジネスホテルの一室を一人分の宿泊料金を支払って3人で宿泊しており、3人はいずれもSNSを通じて知り合った仲だったそうです。
また、逮捕された3人のなかには、家出中の少年も含まれていました。
なお、現場となったホテル周辺の繁華街では、未成年者がホテルに集団で宿泊し、飲酒・喫煙・薬物の濫用などの違法行為を繰り返しているという問題があり、ホテル業界と警察が連携して対策が強化されていました。
この事例のように、チェックインの際に身元が不審であった、チェックインしていない人物が館内を出入りしていたなどの状況があれば、不正利用が発覚して、逮捕されてしまうおそれがあります。
5、まとめ
ホテルの部屋に宿泊者以外の人物を出入りさせる行為は、ホテル側が設けた利用規約に反するだけでなく、法律にも違反してしまう可能性もあります。
発覚すれば宿泊を断られてしまい、以後、同じホテルの利用も難しくなってしまうだけでなく、悪質なケースでは被害届が提出されて刑事事件に発展してしまうおそれもあるのです。
もし、警察に逮捕されてしまうと、長期の身柄拘束を受けてしまったり、厳しい刑罰を科せられたりしてします。
そのため、ホテルの不正利用が発覚したら、できるだけ穏便な解決を目指しましょう。
宿泊者以外の出入りを理由に刑事事件に発展してしまったときは、ベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
各種の刑事事件・民事事件を解決してきた実績豊富な弁護士がご相談を伺い、トラブルの深刻化を防ぐために尽力します。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています