相続放棄の範囲はどこまで? 相続人全員が相続放棄する際の注意点

2023年01月31日
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相続放棄の範囲はどこまで? 相続人全員が相続放棄する際の注意点

相続放棄をすると、後順位の法定相続人へと相続権が移ることになります。

しかし、相続権は無限に移転するわけではありません。相続放棄によって相続権が移転する範囲は限られているのです。

本コラムでは、相続放棄によって相続権が移転する範囲や、相続放棄をする際の注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が解説します。

1、相続放棄をすると、どこまで相続権は移るのか? 相続人の範囲について

相続放棄をした人は、初めから相続人にならなかったものとみなされます(民法第939条)。
相続放棄によって最上位だった相続人がいなくなった場合、相続権は後順位相続人へと移ることになるのです。

  1. (1)相続人の順位

    民法上相続人になり得るのは、常に相続人となる配偶者を除き、子・直系尊属・兄弟姉妹です(民法第887条第1項、第889条第1項)。
    また、子または兄弟姉妹が、死亡・相続欠格・相続廃除のいずれかによって相続権を失った場合には、さらにその子が代襲相続人となります(民法第887条第2項、第3項、第889条第2項)。

    子・直系尊属・兄弟姉妹(またはその代襲相続人)には、以下のとおり相続順位が定められています

    • 第1順位:子(またはその代襲相続人)
    • 第2順位:直系尊属
    • 第3順位:兄弟姉妹(またはその代襲相続人)


    子・直系尊属・兄弟姉妹(またはその代襲相続人)のうち、相続人になることができるのは最上位の人だけです。
    たとえば子が相続人の場合、直系尊属や兄弟姉妹は相続になれません。
    相続人である子がいなくなって初めて、直系尊属が相続人となります。
    兄弟姉妹が相続人になるのは、相続人である子・直系尊属がいない場合のみです。

  2. (2)相続放棄による相続権の移動の例

    子・直系尊属・兄弟姉妹(またはその代襲相続人)のうち、相続順位が最上位の人が全員相続放棄をした場合、後順位相続人へと相続権が移ります。

    具体例としては、以下のような場合があります。

    (a)子(またはその代襲相続人)が全員相続放棄をした場合:
    直系尊属がいれば直系尊属へ、いなければ兄弟姉妹(またはその代襲相続人)へ相続権が移ります。

    (b)直系尊属が相続放棄をした場合:
    先代の直系尊属がいればそちらへ、いなければ兄弟姉妹(またはその代襲相続人)へ相続権が移ります。

    (c)兄弟姉妹(またはその代襲相続人)が全員相続放棄をした場合:
    後順位相続人がいないため、相続権の移動は発生しません。


    上記のとおり、相続放棄に伴う相続権の移動は、兄弟姉妹(またはその代襲相続人)が終点となります。
    なお、相続放棄が行われても、代襲相続は発生しません。
    したがって、相続放棄をした人の子に相続権が移るのではなく、あくまでも後順位相続人へと相続権が移る、という点に注意してください

    子が全員相続放棄をした場合、孫ではなく直系尊属(いなければ兄弟姉妹)へ相続権が移動する

2、相続放棄をする際の注意点

相続放棄の手続きを進める際には、民法のルールをふまえつつ、以下のような点に注意しましょう。

  1. (1)相続放棄は、各相続人が個別に手続きを行う

    相続放棄は、他の相続人と共同で行うものではなく、各相続人が個別に行う必要があるものです。
    たとえ相続人全員が相続放棄をする場合であっても、各相続人がそれぞれに、家庭裁判所へ申述書を提出しなければなりません。

    ただし、相続人全員の相続放棄をまとめて弁護士に依頼することは可能です。
    ご自身で手続きを行うのが面倒であるという場合には、弁護士に一括して依頼することを検討してください

  2. (2)後順位相続人に、相続放棄をする旨を伝えておくべき

    ご自身が相続放棄をした結果、同順位の相続人がいなくなる場合には、後順位相続人へと相続権が移ります。
    その結果、亡くなった相続人が負っていた債務を含めて、後順位相続人が相続することになります。
    相続財産の状況によっては、後順位相続人に迷惑がかかってしまう可能性もあるのです。

    相続放棄を受理した家庭裁判所が、後順位相続人に対して相続放棄があった旨を連絡することはありません。
    そのため、後順位相続人にとって不意打ちにならないように、相続放棄をする旨はあらかじめ伝えておくことが望ましいでしょう

  3. (3)相続放棄には期限がある

    相続放棄は、原則として、自己のために相続の開始を知った時から3カ月以内に行う必要があります(民法第915条第1項)。
    この3カ月間を「熟慮期間」といいます。

    「自己のために相続の開始を知った時」とは、具体的には、以下の時点を意味します。

    (a)最上位の相続人の場合
    被相続人の死亡を知った時

    (b)後順位相続人の場合
    上位の相続人がいなくなったために、相続権を取得したことを知った時


    熟慮期間が経過した場合、原則として相続放棄は認められません(民法第921条第2号)。
    実際の運用においては、家庭裁判所の判断によって相続放棄が認められるケースもありますが、その場合にも詳細な理由説明が必要となります。

    確実に相続放棄を認めてもらうために、熟慮期間が経過する前に、手続きを進行するようにしてください

  4. (4)法定単純承認に注意する

    相続人が、相続財産の全部または一部について不当な行為をした場合は「法定単純承認」が成立して、相続放棄が認められなくなります(民法第921条第1号、第3号)。
    具体的には、下記のような行為をした場合に、相続放棄が認められなくなってしまうのです

    (a)処分(保存行為、短期賃貸借を除く)

    (b)以下の行為(後順位相続人が相続を承認した場合を除く)
    • 隠匿
    • 私的な消費
    • 悪意による相続財産目録への不記載


    特に、相続財産から葬儀費用を支出した場合などには、そのつもりがなくても法定単純承認が成立してしまうおそれがあります。
    相続放棄を検討されている場合には、相続財産には手を付けないでおきましょう。

3、相続人全員が相続放棄した場合の取り扱い

相続人全員が相続放棄をした場合、相続財産管理人が選任されます。
相続人は、相続財産管理人が管理を開始するまで、相続財産の管理を継続しなければならないのです。

  1. (1)相続財産管理人の選任が必要

    ある人が亡くなられた時に財産を相続する人がいなかった場合、家庭裁判所は利害関係人または検察官の請求により、相続財産管理人を選任します(民法第952条第1項)。
    同様に、相続放棄により相続人がいなくなった場合にも、相続財産管理人が選任されます。

    相続財産管理人は、相続債権者・受遺者への弁済、相続人の捜索、特別縁故者に対する分与などを経て、相続財産を国庫に帰属させるまで職務を行います。

  2. (2)相続財産管理人に引き継ぐまでは、遺産を管理しなければならない

    相続人全員が相続放棄をした場合、すべての相続財産の管理を相続財産管理人へ引き継ぐことになります。

    ただし、実際に相続財産管理人が管理を開始するまでには、一定のタイムラグが生じます。
    相続財産を管理している人は、相続財産管理人が管理を開始するまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければなりません(民法第940条第1項)。
    「相続放棄をしたら終わり」ではなく、相続財産管理人が選任されるまでは、責任を持って相続財産を管理する義務があることに注意してください

4、遺産を相続したくない場合に、相続放棄以外で取り得る手段

亡くなった家族の遺産を相続したくない場合、相続放棄以外に考えられる選択肢としては、「相続分の譲渡」と「限定承認」があります。

  1. (1)相続分の譲渡

    民法第905条第1項の解釈上、遺産分割が完了する前であれば、自らの法定相続分を第三者に譲渡できると解されています。
    たとえば、他の相続人に相続権を譲りたい場合には、相続分の譲渡を検討するとよいでしょう。

    相続分の譲渡については、相続放棄とは異なり、民法上厳格な形式・要件が定められていません。
    そのため、相続放棄の熟慮期間が経過した場合や、法定単純承認が成立する場合などにも、相続分の譲渡が認められているのです。

    ただし、相続分を譲渡した場合であっても相続税が課されるほか、相続債務を免れることはできない点に注意してください

  2. (2)限定承認

    限定承認とは、相続した財産額の限度でのみ、被相続人の債務を相続する意思表示のことです(民法第922条)。
    限定承認を行えば、相続した債務が相続した財産を上回ること、すなわち「マイナスの財産の相続」を回避できます

    「遺産を相続したい気持ちはあるものの、被相続人の負っていた借金などの状況は心配である」といった事情がある場合には、限定承認を行うことが有力な選択肢となるでしょう。
    ただし、限定承認は相続人全員で行う必要があるほか(民法第923条)、煩雑な手続きが求められます。
    限定承認を検討している方は、まずは弁護士に連絡して、手続きなどについて相談してください。

5、まとめ

相続放棄をした結果、最上位の相続人がいなくなった場合、兄弟姉妹(またはその相続人)に至るまで、後順位相続人へ順に相続権が移動します。
また、兄弟姉妹なども相続放棄をしたことで相続人がいなくなった場合には、相続財産管理人が選任され、最終的に相続財産は国庫へ帰属することになります。
ただし、相続財産管理人が管理を開始するまでの間は、相続人だった人が相続財産の管理を継続しなければなりません。

相続放棄については、熟慮期間や法定単純承認など、注意すべきポイントがたくさんあります
相続放棄を確実に実行したり、ご自身にとって最善の手続きを選択したりするために、早い段階から弁護士に相談しましょう。

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