遺留分は必ずもらえるの? 遺留分侵害請求や請求できないケースを解説
- 遺産を受け取る方
- 遺留分は必ずもらえる
親族が亡くなった際、ご自身が受け取れる遺産が他の相続人と比べて少なく不公平だと感じられるケースがあります。
このように相続が不平等と思われる場合には、一定の条件の相続人には最低限の取り分として「遺留分」が保障されています。ただし遺留分が必ずもらえるのかは、相続人が故人(被相続人)との関係によります。
そこでこの記事では、遺留分とはどのようなものか、もらえる条件や財産の範囲、請求方法について、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が分かりやすく解説していきます。
1、遺留分の財産は必ずもらえるの?
遺留分を侵害されている相続人は、遺留分侵害額分の金銭の支払いを請求することができます(遺留分侵害額請求権)。
しかし、相続人であれば全員が必ず遺留分の財産をもらえるわけではありません。ここでは、遺留分をもらえる条件と、そもそも遺留分とは何かについて解説します。
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(1)一定の条件を満たせば遺留分は必ずもらえる
遺留分は、一定の条件があれば必ずもらえます。
遺留分の権利者となれる相続人は、以下のとおり「兄弟姉妹以外の相続人」です(民法第1028条)。
- 被相続人の子及びその代襲相続人
- 被相続人の直系尊属
- 被相続人の配偶者
そして、遺留分の割合については以下のように規定されています(民法第1042条1項)。
- 直系尊属のみが相続人である場合:3分の1
- 上記以外の場合:2分の1
また、相続人が複数いる場合には、法定相続分に上記の割合をかけ合わせて算定します(民法第1042条2項)。
たとえば、被相続人の配偶者と子ども1人が相続人であった場合、遺留分の割合は遺産全体の2分の1となり、各相続人が個別に受け取れる遺留分については、配偶者は4分の1(=総体的遺留分1/2×法定相続分1/2)、子どもは4分の1(=1/2×1/2)となります。
なお、該当の相続人であっても相続を放棄するなどすれば、遺留分をもらうことはできないため注意が必要です(詳しくは「3、遺留分を請求できないケースと対策」で後述)。 -
(2)そもそも遺留分とは?
そもそも「遺留分」とはどのようなものなのでしょうか。
遺留分とは、遺言の自由を制限して、一定の範囲の相続人のために法律上必ず留保されなければならない相続分の一定割合のことをさします。
被相続人(亡くなられた方)は、生前に形成・維持した財産を遺言によって自身の死後、自由に処分することができます。他方で、被相続人の財産に依存して生活してきた配偶者や子どもの生活を保障する必要があり、被相続人の財産形成に寄与・貢献してきたことによる実質的共有持分を確保しておく必要もあります。
このような要請から、被相続人の意思によっても奪うことができない、相続人の最低限度の取り分のことを「遺留分」といいます。
2、遺留分侵害額請求とは?
ここでは、遺留分侵害額請求をするための流れについて解説していきます。
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(1)内容証明で請求する
遺留分侵害額請求権を行使するためには、受遺者・受贈者に対して意思表示を行う必要があります。この意思表示については裁判を起こして意思表示する必要はなく、口頭であっても有効です。
ただし、請求の証拠を残すために遺留分侵害額請求書を作成し、内容証明郵便を利用して請求するのが一般的です。内容証明郵便とは、郵送の日付や内容を郵便局が証明するサービスです。
内容証明郵便によって請求するメリットとして、時効の完成が猶予されます。裁判外での請求は「催告」となるため、催告から6か月を経過するまでは時効は完成しません(民法第150条)。特に遺留分侵害額請求権の消滅時効期間は短いため、時効完成間近の事案では、内容証明郵便を用いて時効をストップさせることは重要となります。 -
(2)調停の申し立て
遺留分侵害額の請求について、当事者間で話し合いがつかない場合や、そもそも話し合いに応じてもらえないという場合には、家庭裁判所の調停手続きを利用することができます。
調停は裁判のように勝ち負けを決めるのではなく、話し合いによってお互いが合意することで紛争の解決を図る手続きです。
調停事件では、裁判官一人と民間の良識のある人から選ばれた調停委員2人以上で構成される調停委員会が、当事者双方の事情や意見を聞き、双方が納得して問題を解決できるよう、助言やあっせんをすることになります。
当事者間で合意が成立すると、合意事項を書面にして調停は終了します。 -
(3)訴訟を提起する
調停手続きにおいても合意できず調停が不成立となった場合には、遺留分侵害額請求訴訟を提起する必要があります。
請求する遺留分侵害額の訴額が140万円以内であれば簡易裁判所の管轄となり、訴額が140万円以上となれば地方裁判所の管轄となります。
遺留分侵害額請求訴訟においては、遺留分権利者が原告として訴訟を提起し、遺留分侵害額について主張・立証を行うことになります。具体的には、遺留分の基礎となる相続財産や遺贈や贈与の内容や金額について証拠を示して適切に主張していく必要があります。
訴訟中に和解の可能性を探るケースが一般的ですが、和解ができない場合には最終的には裁判所が判決によって判断することになります。
3、遺留分を請求できないケースと対策
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(1)遺留分がない相続人のケース
遺留分の権利がない相続人としては、前述のとおり兄弟姉妹の相続人がいます。ただし、それ以外にも遺留分の権利がない相続人がいますのでここで解説していきます。
① 相続欠格となった相続人
以下のような相続人は、相続欠格として当然に相続権を失います(民法第891条)。- 故意に被相続人や先順位・同順位の相続人を死亡させ刑に処せられた相続人
- 被相続人が殺害されたことを知っているのに告訴・告発しなかった相続人
- 詐欺・強迫によって被相続人に遺言をさせ、撤回・取消し・変更をさせた相続人
- 相続に関する被相続人の遺言を偽造・変造・破棄・隠匿した相続人
② 相続廃除となった相続人
遺留分を有する推定相続人が被相続人に対して虐待や重大な屈辱を与えたり、その他著しい非行があったりしたときは、被相続人が推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができます(民法第892条)。
そのような非行については、被相続人に対して精神的な苦痛を与え、または名誉を毀損する行為であって、それにより被相続人と推定相続人との家族的共同生活関係が破壊され修復が著しく困難なものであるとされています。
③ 相続放棄をした相続人
相続放棄とは、被相続人の権利義務の承継を相続人が拒否する意思表示のことをいいます。相続放棄は法的の期間内に管轄の家庭裁判所に申述をする必要があります。
相続放棄をした相続人は、はじめから相続人ではなかったことになるため、遺留分の権利も放棄により失うことになります。
④ 遺留分放棄をした相続人
遺留分の放棄をした相続人は、遺留分侵害額請求権を行使することはできません。遺留分権利者が遺留分の権利を自ら放棄することで、被相続人の生前でも死後でも放棄することができます。ただし、相続開始前の遺留分の放棄については、家庭裁判所の許可を受けなければなりません。 -
(2)遺留分侵害額請求権の時効が完成したケース
遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知ったときから「1年間」行使しないときは、時効によって消滅します(民法第1048条)。
したがって、被相続人が亡くなった事実と贈与が遺留分を侵害することを知っていながら1年間放置していると、遺留分の権利を請求することができなくなります。
また、相続の開始のときから「10年」が経過したときも除斥期間として、遺留分侵害額請求をすることはできなくなります。
4、遺留分に関するトラブル例
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(1)不公平な生前贈与
たとえば、被相続人が亡くなる10年以内に、長男には住宅資金として3000万円の贈与を受けていたという場合には、相続財産に加算されて遺留分が算出されることになります。
これは、相続開始前の「10年以内」の相続人への生前贈与については“特別受益”にあたり、遺留分の対象となるからです。特別受益にあたる生前贈与とは、一部の相続人だけが特別に得た生前贈与であって、婚姻・養子縁組・生計の資本として贈与されたものをさします。
このように他の相続人の遺留分を侵害している場合には、その侵害額を現金として返金する必要があります。
特別受益に該当する否かの判断は難しい可能性があるため、ご自身で判断が難しいという場合には弁護士に相談することをおすすめします。 -
(2)相続人以外の第三者へ遺贈がある
被相続人が亡くなる前の「1年間」にされた相続人以外の第三者への生前贈与は遺留分を算定するための財産に含まれることになります。
従兄弟や孫に贈られた1000万円については、相続開始前1年以内になされたものであれば、相続財産に含めて計算されることになります。
また、亡くなる1年以内に被相続人が愛人にマンションなどの不動産を購入して贈与していた場合などでは、その愛人に対して遺留分侵害額請求をしなければならないケースもあります。
5、まとめ
以上、兄弟姉妹以外の相続人には一定の遺留分が保障されており、遺留分侵害額請求をすることでもらえることになります。ただし、遺留分を請求することができないケースに該当しないことを確認しておくことが重要です。
遺留分に関する相続トラブルが起きた場合には、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスには相続事件の解決実績がある弁護士が在籍しております。お困りの際は、まず一度お話をお聞かせください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています