田舎の土地を相続したくない方へ|手放す方法や相続するメリットなど
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越谷市役所では「住まいの終活ノート」を配布して、家族間で相続に関する話し合いをするきっかけづくりの取り組みを行っています。
こうした取り組みの背景には、近年、相続の手続きがされないまま放置されて所有者が分からなくなった土地が国土の約2割を占めるという状況があります。所有者不明の土地の増加を防ぐため、所有者の責任の明確化や、相続に関するルールの見直しなどの法改正が相次いでいますが、土地を相続した場合は、思わぬ不利益を受けることもあるので、注意が必要です。
今回のコラムでは、田舎の土地を相続するメリット・デメリットや、田舎の土地を手放す方法、相続放棄の判断ポイントなどを、ベリーベスト法律事務所 越谷オフィスの弁護士が解説します。
1、田舎の土地を放置するとどうなる?
相続が発生すると、遺産である土地の所有権は相続人全員が共有する状態で引き継ぎ、その後、相続人の名義変更手続(所有権移転登記)を行うことになります。
しかし、田舎や遠方の土地の相続の場合、手続きが滞るケースも珍しくありません。
ここでは、土地の所有者(共有者)としての責任と、相続の手続きをせず放置することによる不利益の二つのリスクについて解説します。
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(1)土地の所有(共有)者としての責任
土地を相続することになった場合は、所有者(共有者)として以下のような責任を負います。
① 固定資産税や都市計画税がかかる
土地の固定資産税や都市計画税は、毎年1月1日時点の所有者が負担することになっていますが、相続が発生している場合は、相続人が納付の義務を負います。
② 管理の手間や費用がかかる
土地を使用しないまま放置していると、草木の繁茂や廃棄物の不法投棄、風雨による土砂崩れなどが発生する可能性があるので、所有者の責任として定期的に見回りや手入れをして管理する必要があります。
適切な管理を怠ると、近隣に居住している方や農業を営んでいる方とトラブルになることもあり、損害が発生した場合は賠償を請求される可能性もあります。
③ 管理不全土地管理命令の対象になることがある
土地や建物の所有者が適切な管理を行わない場合は、裁判所が選任した管理人が所有者に代わって必要な管理を行う「管理不全土地・建物管理制度」が令和5年4月1日より施行されています。
管理人には弁護士や司法書士などの専門家が選任されますが、管理に必要な費用や報酬は所有者の負担とされるので、高額な金額が請求される可能性もあります。 -
(2)相続の手続きを行わない場合のリスク
土地の相続が発生しても、相続手続を行わないまま放置した場合、相続人が不利益(ペナルティ)を受ける可能性があります。以下の2つの制度の概要とペナルティのリスクについて、確認しておきましょう。
① 相続登記の義務化
令和6年4月1日から、相続によって土地や建物などの不動産を取得した相続人は、3年以内の相続登記義務が発生します。
複数の相続人がいる場合は、相続人全員で誰が土地を相続するのかを話し合う遺産分割協議を行い、その結果、土地を取得することになった相続人が相続登記を申請する義務を負います。
この義務に違反した場合は、10万円以下の過料の制裁を受けることがあります。なお、相続登記の義務化は令和6年4月1日から施行されますが、それ以前に発生した相続にも適用されるので注意が必要です。
② 遺産分割の新ルール
相続が発生すると、すべての相続人で遺産分割協議を行う必要がありますが、田舎の土地のように相続を敬遠される財産がある場合は、遺産分割をしないまま放置されるケースも少なくありませんでした。
そこで、相続が発生してから10年が経過すると、法律によって決まる相続分に従って遺産分割されるルールが令和5年4月1日から施行されました。
遺産分割協議は、故人の生前に受けた贈与を加味したり、相続人の希望に沿ったりして行うのが一般的ですが、10年が経過すると実情に沿った遺産分割ができなくなる可能性があります。
2、田舎の土地を相続するメリット・デメリット
田舎の土地を相続することについて、考えらえるメリットやデメリットを解説します。
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(1)メリット
土地を相続するメリットは、以下のようなことが考えられます。
- 土地という資産が手に入る
- 売却や賃貸により収益を得られる可能性がある
- 地価が上がる可能性がある
相続により土地を取得した場合、相続税が課税される可能性はありますが、売買取引の際は発生する購入資金や不動産取得税が必要ありません。
また、所有権の登記名義を変更する際の登録免許税も、売買や贈与の場合は土地の価額の「1000分の15」(令和8年3月までの軽減措置)であるのに対し、相続の場合は「1000分の4」とされています。
また、利便性の高い土地のオーナーになれば、売却や賃貸をしたり、地価が上昇したりする楽しみもあるでしょう。 -
(2)デメリット
土地を相続した場合は、以下のようなデメリットを考えておく必要があります。
- 固定資産税や管理のコストがかかる
- 売却や賃貸が難しい場合がある
- 次世代の負担になることがある
土地の所有者になった場合は、前章でも解説したとおり、固定資産税などの税金や、管理コストが将来にわたって必要です。
また、田舎の土地であれば、売買や賃貸の需要があるとは限らず、地価の上昇もそれほど期待できないのが実情でしょう。さらに、郊外では「市街化調整区域」に指定されている土地があり、住宅の建設などの開発が制限されているので、売却などの処分が更に難しいこともあります。
すぐに利活用するあてがない土地であれば、将来、子どもや孫の世代に残しても重荷になることも考えておきたいところです。
3、田舎の土地を手放す方法
田舎の土地を相続して手放したいと考えられる場合の対処法や、相続しない方法について解説します。
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(1)売却する
利用する見込みがない土地であれば、売却して現金化するのが最も有力な方法といえます。
相続税が課税された場合、相続税の申告期限から3年以内に相続により取得した土地などを売却すると、売却益に課税される譲渡所得税が軽減される特例措置が実施されています。
たとえば、故人が300万円で購入した不動産を500万円で売却した場合は、差額の200万円から取引費用などを控除した売却益に譲渡所得税が課税されますが、特例が適用されると納税した相続税額の一部を上乗せして控除されます。
土地の売却には時間がかかることもあるので、特例措置を利用する場合は、できるだけ早期に売却を進める必要があります。 -
(2)自治体や近隣住民などに寄付・贈与する
売却が難しい土地は、無償であれば自治体などに引き取ってもらえる可能性もあります。ただし、あくまで引き取り手との合意が必要であり、自治体や公益法人以外へ寄付した場合は贈与税が課税される可能性もあります。
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(3)相続土地国庫帰属制度を利用する
相続した土地の使い道がなく、売却などが難しい場合は、国に申請して有償で引き取ってもらうことができる制度が令和5年4月27日にスタートしました。
ただし、申請をすれば引き取ってもらえるわけではなく、土地の形状や権利関係などについて要件を満たしているか審査が行われた上で、適当と認められれば、負担金を納付して引き取ってもらえるという流れになっています。
また以下のように、引き取ってもらえない条件も数多く設定されているので注意が必要です。- 建物など工作物がある
- 抵当権などが設定されている
- 通路など他人の使用が予定されている
- 有害物質により土壌汚染されている
- 隣地との境界が明らかでない
- 急こう配の崖がある
- 除去が必要な物体が地下に埋まっている
- 無権利者に使用が妨害されている
- 通常の管理や処分に過分の費用や労力を要する
申請時に必要な費用は一筆の土地につき1万4000円とされており、引き取りが承認された場合の負担金は、宅地の場合の目安として20万円とされています。遺産分割をしていない土地は、相続人全員で申請する必要があります。
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(4)相続放棄する
相続の発生を知った時(通常は故人が亡くなった時)から3か月以内であれば、相続放棄も選択肢となります。相続放棄については、次章で詳しく解説します。
4、土地を相続放棄する判断ポイントや注意点
土地を相続したくない場合は相続放棄が選択肢となりますが、相続放棄には注意すべき点があります。相続放棄すべきかの判断ポイントや手続きの注意点について解説します。
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(1)相続放棄をする判断ポイント
相続放棄は、借金などの負債を回避する際によく利用される制度ですが、土地を相続したくない場合にも利用することができます。
相続放棄をすると、そもそも相続人ではなかったことになるので、1章で解説したような責任から解放されることになります。ただし、相続財産の一部だけを相続するということはできないので、土地のほかに預貯金など相続したい財産がある場合は、慎重に検討する必要があります。 -
(2)相続放棄の注意点
相続放棄をする場合は、以下の点に注意が必要です。
① 申述の期限は3か月
相続放棄は、亡くなった方の住所を管轄する家庭裁判所で「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」に申述の手続きをする必要があります。
3か月の期限は、通常は財産を残した方が亡くなったことを知った時から始まるので、相続放棄をするか否かの判断もできるだけ早く行う必要があります。
② 財産は一切取得できない
相続放棄は、預貯金や貴金属など一切の財産が相続の対象となります。そのため、相続財産を処分すると、相続を承認したとみなされて、相続放棄ができなくなる可能性があります。
相続財産の処分とは、具体的には、亡くなった方の預貯金を引き出して生活費として使ったり、形見分けで高価な物品をもらい受けたり、また不要物の廃棄するような行為も該当します。
③ 相続権は後順位の相続人へ移る
被相続人の子が全員相続放棄をすると、相続権は後順位の「父母、祖父母など直系尊属」や「兄弟姉妹」の順に移っていきます。相続放棄をする場合は、後順位の相続人に相続の負担がいくことを考慮し、放棄する旨の連絡をするなどの配慮が必要です。
5、土地や財産の相続放棄は弁護士への依頼がおすすめ
田舎の土地を相続したくない場合は、相続放棄をすることも選択肢となります。相続放棄の手続自体はそれほど難しいものではありませんが、相続放棄をしたほうがいいのか否かの判断には迷われる方も少なくないでしょう。
田舎の土地のように相続したくない財産がある場合は、第三者への相続分の譲渡や、限定承認という方法が使えることもあります。こうした手続きは、相続問題の実績がある弁護士に依頼することをおすすめします。相続のケースに合わせて、最適なサポートや対処方法の提案を受けることができます。相続放棄をする場合でも、注意が必要な点もあるので、早めに弁護士に相談されるとよいでしょう。
6、まとめ
田舎の土地の相続人になった場合、土地の所有者(共有者)としての責任やリスクも引き継ぐことになります。そのため、手続きが滞ることもよくありますが、放置は禁物です。民法などの改正により、土地の所有者としての責任はより重くなり、相続手続を怠った場合には不利益を受ける規定も新たに設けられているからです。
また、相続放棄をすることも選択肢となりますが、申述の期限など注意が必要な点もあるので、できるだけ早期に対処する必要があります。
ベリーベスト法律事務所では、遺産相続に関する法律相談を随時受け付けております。田舎の土地を相続することになった場合など、相続に関してお困りの方は、まずはベリーベスト法律事務所 越谷オフィスへご相談ください。
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